九皐会別会「葵上 古式」GWは日本だけのもの

2026年04月27日

御礼「葵上 古式」

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九皐会別会にて、「葵上 古式」をつとめました。
ご来場の皆様、ありがとうございました。

定期能や個人の会など公の能楽堂での公演で「葵上」を演じるのは、3回目です。
今回は、「古式」という珍しい小書に挑戦致しました。

世阿弥が「世子六十以後申楽談議」という著書で犬王が演じる「葵上」の舞台記録を記してあり、それに則った演出が「古式」です。
1984年が初演で、以後様々な方が演じ、今では正式な小書(特殊演出)として扱われています。

通常の演出と大きな違いは、「破れ車」という作り物が登場して、前シテ・六条御息所のお供として「青女房」という前ツレが登場することです。

これは、今でも謡の詞章に
ツレ「不思議やな誰とも見えぬ上臈の。破れ車に召されたるに。青女房と思しき人の。牛もなき車の長柄に取りつき。さめざめと泣き給ふ痛はしさよ」

とあることから、本来「破れ車」と「青女房」は登場するのが自然に思えます。
能は省略・引き算の芸能なので、年月を経て上演が重なるにつれ、いつのころから「破れ車」と「青女房」は省略されたのでしょう。

能の特徴として、「お客様の想像力にゆだねる」ことを重視しています。そのため、余計なものは敢えて省略したのでしょう。
確かに色んなものが無い方が、六条御息所の苦悩によりスポットが当てられ、貴婦人の悲しみがより強調されます。
ただ、作り物や登場人物が多いとより華やかに分かりやすくなります。

通常の演出にも古式にもそれぞれの良さがあります。
今回は敢えて、色んなものをのせて、より分かりやすく、より華やかな演出を試みました。


まず、照日の巫女には「梓の弓」という小道具を持ってもらいました。
これにより「梓の弓」を弾いて怨霊をおびき出すという演技が分かりやすく見えます。
26.04.26 観世九皐会別会 (177)

そして、作り物「破れ車」を橋掛り一ノ松に出しました。
「破れ車」は、舞台の大小前や常座に出すことが多いのですが、国立能楽堂には広くて長い橋掛りがあるので、橋掛りに出すことにしました。
この作り物は、源氏物語の名場面「賀茂の祭の車争い」にて葵上の郎等に牛車を壊されたという記述に基づき、窓や天井、長柄などをあえて壊しています。

そこに、ツレ「青女房」と共に登場します。
前述の謡の文句のとおり、車の長柄に取りつきさめざめと泣くのは青女房にやっていただきました。
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通常の演出ではシテが車の長柄に見立てた橋掛りの欄干に取りついて泣くのですが、この方が詞章に添った自然な形です。


クドキの段落は、小書ではツレ(照日の巫女)とシテ(六条御息所)が一緒に謡います(同吟)。
シテの実体は巫女にしか見えていなくて、巫女の口寄せでシテのコトバを語っているという形なのです。

ここを、ちょっと工夫しました。
全体を三つに分け、最初の段落は巫女が一人で謡い、二番目の段落は巫女とシテの二人で謡い、最後の段落はシテ一人で謡いました。

最初は巫女が語っているのですが、段々と巫女にシテが乗り移っている感じを出したかったのです。

前場のクライマックスで、恨みが爆発して葵上を象る出し小袖へ攻め寄るシーンでは、まずは青女房が六条御息所に「冷静になれと」止めるシーンを入れます。
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「あら浅ましや六条の。御息所ほどの御身にて・・・」という詞章に合わせて、「松風」や「富士太鼓」のようにシテを一旦は止めます。

しかし、やがて恨みは爆発して、ついには二人で葵上を打ち据えます。
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青女房を演じていただいた小島英明師は、私と同様大柄なので、二人して葵上の枕元に攻め寄る場面はたいそう迫力があったことと思います。
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後場は、緋の長袴を履きました。
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緋の長袴を履くのは、4年前の能まつりで演じた「葵上 空之祈」、去年の「道成寺 赤頭」に続いて3度目なので、少々慣れてきました。

慣れてきたので思い切って今回は、今までの2回よりも裾の長い緋の長袴を着けました。その分華やかになりますが、長い分裾さばきは難しくなります。

「祈り」という段落では、ワキと激しく戦いますが、リアルな型を入れ込んで工夫しました。


他にも、様々な部分でイロイロな趣向を凝らして「葵上 古式」を組み立てました。

様々な方の映像に目を通して、色んな演出を少しずつ借りての演出です。
「葵上 古式」は、出来てまだ日が浅いので、様々な方が色々な演出で演じていらっしゃいます。

「この方が良いかなあ」
「こっちの演出の方が、見栄えがするぞ」
「そうか、こういうやり方もあるなあ」

色んな「古式」を見ながら、自分の中に落とし込んで自分の「古式」を組み立てる作業は、新鮮で刺激的でした。

通常の能では、出来上がった型付けの通りに演じなければなりません。
700年近く演じ続けられて洗練された型には、積み重ねの力があり、強固な説得力があります。

「葵上 古式」は、今その「積み重ね」を積み上げている段階のようです。
それゆえ、演出の幅が大きく存在します。

役者として、とてもやりがいを感じる舞台でした。


撮影 駒井壮介  無断転載を禁じます。


kuwata_takashi at 19:16│Comments(0)

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