緑泉会「天鼓 弄鼓之舞」ご案内3年ぶりの発表会

2022年11月05日

御礼「天鼓 弄鼓之舞」

緑泉会の「天鼓 弄鼓之舞」、無事に終わりました。

 

「天鼓」の能は、10年前に演じています。劇的な展開の前場に苦労したことを思い出します。

特に、冒頭に揚幕を出てすぐに謡う「一声・サシ・下歌・上歌」の長い謡がやりにくかったことを思い出します。

 

今回は二度目なので「弄鼓之舞」という小書(特殊演出)で演じました。

 

この小書がつくと、ありがたいことに冒頭の「一声・サシ・下歌・上歌」がごっそり抜けます。とても良い謡なので抜けるのは残念なのですが、厄介な箇所なのでホッとします。

 

前シテの出で立ちは、古い装束を拝借しました。生地も薄くなっており、慎重に着付けていただきました。

中国風の模様で、この能にピッタリです。


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前場は、力むことなくスムーズに出来ました。やはり二度目の上演だと余裕があります。

前回のビデオを見て、反省点をキチンと修正して演じられました。

 

初演の時はわりにスッキリと演じましたが、今回は少々ドラマティックに演じてみました。年齢を重ねるうちに、型や所作に劇的な要素を自然に乗せられるようになったように思います。

若いうちは、変に芝居っけ出すと、どうにも鼻につくあざとい演技になりやすいものですが、段々とそういったあざとさが取れてきたかなあと思います。

 

「弄鼓之舞」の眼目は、やはり後場でしょう。

後場の舞がガラリと変わります。


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そもそも「天鼓」という能は、後場に可憐な少年が晴れやかに舞うところが見せ場となっています。

その舞をひたすら面白くしたのがこの小書です。

 

この能では、「楽(がく)」という軽やかで面白い旋律の舞を舞います。

ただでさえ浮きたつような面白い舞ですが、「弄鼓之舞」では、この舞がいっそう高い調子で演奏される「盤渉楽(ばんしきがく)」に変わります。

 

そして舞の途中で、橋掛りに行ったり、舞台の正面先に置かれている作り物につけられている鼓を打ってみせたり、鼓の鳴る音を聞いて喜んだり、またその作り物の前を通ったりと、舞の中に面白いエッセンスがギュウギュウにつまっています。

 

キリ(終曲)の舞も、型がより面白くスリリングになっています。

見せ場は、足拍子をすべて裏の間合いで踏むところです。

 

能の拍子には表の拍と裏の拍があります。通常足拍子は表拍で踏みます。

身体のリズムが表拍に慣れているので、裏拍で踏むのはとても難しいのです。

踏んでいるうちに、どうしても表拍になってしまいます。

また、足拍子が鳴るリズムも裏拍だと、どうにも違和感があります。その違和感が面白いのです。

 

この裏拍の拍子がなかなか上手く踏めなくて苦労しました。

 

そしてなによりも、盤渉楽に苦労しました。

盤渉楽は、実はとてもめずらしい舞です。能楽師になって25年以上になりますが、今回初めて舞いました。

稽古でも舞ったことは無く、文字通り全くの初めてです。

 

複雑な旋律にリズム、そして不規則な足拍子。厄介な舞です。

もちろん、修業中にお囃子の稽古はしました。笛や太鼓の先生に何度も怒られながら盤渉楽を稽古したことを思い出されます。

 

その時稽古したのは、一噌流でした。

笛の流儀は東京では主に一噌流と森田流とあります。通常、その二つの流儀ではそんなに違いはありません。だから私たち能楽師は、ベースとしてどちらかを習って、他の流儀の笛の時は、違うところを気にして舞うのです。

 

ただこの盤渉楽は、一噌流と森田流では全く違います。

今回の「天鼓」では、笛は森田流でしたので、覚えるのに苦労しました。

 

思えば、申合までは常に頭の中でイロイロ気にしながら舞っていました。

 

「えっと、ここで六つ拍子を踏んだら、すぐ二つ寄せて踏んで・・・」

「ここは拍子の後、間があるから、じっくりためて動こう・・・」

「ここは逆に間がないから、動き出しを早くして・・・」

 

自分の稽古では、そんなことばかり考えて舞っていました。

それが申合の時初めて、盤渉楽を舞っていて楽しいと感じられました。そう思えたことが意外でした。

こうなると、当日の不安は一気に和らぎます。

 

当日は、落ち着いて楽しく舞えたかなと思います。

 

 

この年で新しい舞に挑戦した「天鼓 弄鼓之舞」

新しいことに挑戦するという行為は、いつになっても大変です。

でも、成し遂げた時の爽快感は特別なものです。

良い経験が出来た能でした。



kuwata_takashi at 23:00│Comments(0)

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