2022年06月26日
「葵上」御礼
たくさんのお客様にご来場を賜りました。この場を借りて御礼申し上げます。
一昨年はコロナ禍により中止。
そして昨年は緊急事態宣言下での開催でした。観世能楽堂が入っている商業施設GINZA SIXが閉館している中で、お客様も50%に制限してひっそりとした開催でした。
今年は、華々しく開催できましたことを、うれしく思います。
実は今年の公演を開催するにあたって、大きな懸念材料がありました。
最近、下腹部に痛みが続いておりました。公演の10日ほど前、その痛みが激しくなってきたので病院でみていただいたところ、「鼠径(そけい)ヘルニア」と診断されました。いわゆる脱腸です。
鼠径ヘルニアは手術しないと治らないので、お医者様はすぐに手術をした方が良いとおっしゃいます。そうは言っても主催公演が終わるまで手術なんてとてもできないので、公演までは痛み止めの薬を飲んでやり過ごすことにしました。
それから10日間は、お弟子様のお稽古も中止してひたすら身体に負担がかからないように努めました。
充分休んでいたので、公演当日はすこぶる体調は良かったです。いつもは一錠飲んでいる痛み止めを、この日は二錠飲んで「葵上」に臨みました。
能が始まると、アドレナリンが出まくりますので、痛みは全く感じません。思う存分演じることが出来ました。
冒頭、六条御息所の独白が続きます。この場面の謡は力の入る箇所です。恨みを込めて謡う中にも、六条御息所としての気品が必要となってくる難しい謡です。
いつもは変に力んでしまうのですが、この日はうまく謡えたように思います。
冒頭から前場の中ほどのクドキという段落までの間に、いかに世界観を構築するかが「葵上」のキモであると思います。クドキを首尾よく謡い終え、身体に力がみなぎってきます。「良い状態で演じているな」感じられました。
不思議なもので、集中していると自分を客観的に見ることが出来るものです。
前場のクライマックスの枕之段も、上手く出来ました。
ここは、抑えていた感情が爆発するところです。気持ちをカケて演じました。
葵上をかたどる小袖に扇を投げるシーンも良い具合で出来ました。そして着ていた唐織を脱いでうずくまるシーンもバッチリ決まりました。
ここはうまく唐織が脱げなかったりして、事故の多い場面ですが、後見が工夫して唐織を着付けてくださいましたので、上手く出来ました。
この場面の唐織の着付け方と、唐織の脱ぎ方には、様々な口伝や工夫があります。首尾よく出来てホッとしました。
装束も、緋長袴(ひのながばかま)という見た目も鮮やかなものになります。ただ、この緋長袴はとても動きにくいのです。事前に履いてみて練習したところ、優雅に裾を扱っていては、足にまとわりついてうまく動けません。少し大胆にバサバサと裾をサバかないといけません。裾をサバくのも型として、乱暴にならないように心掛けました。
初めて緋長袴をはきましたが、その割にスムーズに動けたかなあと思います。
「葵上」は上演頻度も高いので、様々な演出や型の工夫が試みられています。私もいろんな「葵上」を見てきました。
でもたぶん、オリジナルが一番しっくりくるように思います。
今回は、あえてあまり工夫を凝らさず、シンプルに演じてみました。「シンプル イズ ベスト」とはよく言ったものです。「葵上」は台本がよく出来ているので、台本の力が良い舞台にもっていってくれます。
改めて、「葵上」ってよく出来た能だなあと感心しました。より一層と「葵上」が好きになりました。
思う存分「葵上」を演じることが出来ました。
さあ、明日から入院です。