台風の中、高知へ深川江戸資料館「秋の能楽初め」

2021年09月19日

「鵜飼」御礼

台風一過のシルバーウィーク。
緑泉会にて能「鵜飼」を演じました。ご来場の皆様、ありがとうございました。


前日は、高知で「羽衣」の地謡と「安宅」のツレ山伏を勤めて疲労困憊でしたが、今日は朝起きると元気一杯です。

やはり、シテの日はアドレナリンが出るのでしょうか。まったく疲れも感じませんでしたが、大事をとって午前中は身体を休め、いつもより遅く楽屋入りしました。


「鵜飼」は、前シテが独特な能です。
卑しい身分の老人という、能にしては珍しい役柄です。難しい表現になります。

あまり立派に演じるわけにはいきませんが、かといってショボクレた老人になっては能になりません。
前シテは謡が多いので、気を使いました。

あまり、直接的に力が現れないように、身体内に力を込めて演じました。
「何だかただ者ではない老人の存在感」を出そうと工夫しました。

そんな普通ではない力加減で演じていたので、前場はいつも以上に疲れました。
力を外に発散して直接的に演じる方が、やはりやり易いですね。

前場の見どころは、生前の鵜を使って魚を取りまくる場面を再現する「鵜之段」と呼ばれる場面です。
ここは、前場の最後の場面です。
それまで終始、力を内に込めて抑えた演技をしていましたが、ここで蓄えたエネルギーを一気に放出しました。
一心不乱に魚を捕る様を、少々強めに演じました。

これは、ある兄弟子の舞台を参考にしました。
その兄弟子は、たいそう釣り好きで、ちょくちょく釣りに出かけています。

その兄弟子が「鵜飼」を演じた時、「鵜之段」がすごい迫力だったので、他の兄弟子が「老人の舞だから、もう少し抑えた方が良いのでは」とアドバイスをしていました。

するとその兄弟子は涼しい顔をして言いました。
「何言っているんだ、釣り場では老人の方がよっぽど元気だぞ。みんなすごい勢いで、生き生きとして魚をとってるものだよ。」

なるほど、実体験に元づいた演技には説得力があります。
私もその兄弟子のように、勢いよく、生き生きと魚を捕る様を演じました。


さて後場ですが、後シテは閻魔大王という分かりやすい役柄です。
大ぶりにドッシリと演じました。

こういう役柄は、力を外に発散できますのでやり易いものです。
あらん限りの力をぶつけて謡い、舞いました。

飛び安座という、能の中でも最も派手な大技(飛び上がって、空中で安座の姿勢を作ってそのまま舞台へ着地するという危険な型)も、キッチリ決まりました。


50歳となって初めて演じた能でした。
前に書きましたが、50代は能楽師として全盛期です。

生涯で一番良い能を、常に演じていきたいと思います。
そして、毎回の生涯一番の能を更新していきたいと思っています。


ところで、我が家の近くには法乗院(深川えんま堂)というお寺があります。
そこには高さ3.5m、幅4.5mという日本一の大きさを誇る閻魔大王座像があります。
今回、「鵜飼」を演じるにあたって、神妙にお参りいたしました。

DSC_1171

ごらんの通り、すごい迫力です。
この閻魔大王の迫力を胸に焼き付けて、今回の舞台は演じました。


kuwata_takashi at 22:30│Comments(0)

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