2020年09月05日
「一角仙人」御礼
緑泉会にて、能「一角仙人」を演じました。
緑泉会定例会も、5月公演は延期となりましたので、2月公演以来7か月ぶりの開催です。
新型コロナウイルス感染拡大予防のため、様々な対策を重ね、何とか開催することが出来たことを、まずは喜びたいと思います。
今回の「一角仙人」は、長男と次男を龍神の役にすえて親子3人共演の予定でした。
初の親子3人共演を楽しみにしておりましたが、長男が足を骨折したため3人共演はかないませんでした。
残念ではありますが、中学生男子にケガは付きものなので、しょうがないことです。
かくいう私も、長男と同じ中学2年生に、足を骨折した経験があります。
佐久間二郎さんにすぐに代役をやっていただけたことは、幸いでした。
さて、「一角仙人」という能は、とても面白い能です。
芝居っ気たっぷりの内容で、色んな工夫が出来る能です。
今までにいろいろな方の「一角仙人」を見てきました。
今回は、それらを少しずつミックスして、面白い演出を考えてみました。
能は、決められた型とセリフを延々と演じているものと思われがちですが、案外演出の余地は多くあります。
能には演出家や舞台監督などはいません。あえて言うならシテが演出家を兼ねると言えるかもしれません。
自分の中で思い描いていた「一角仙人」を、今回は上手く具現化して演じられたと思います。
シテは通常は、黒頭というボサボサのかつらを着けるのですが、今回はサラサラのバス頭を着けました。
最初の能「田村」が同じ黒頭を着けるので、重なるのを避けました。
バス頭に一角仙人の能面は、けっこう凄味があってよい恰好でした。
シテが入る萩小屋という作り物は、通常はワキ座に置くのですが、今回は笛座前に置いてみました。
これは大正解でした。
まず、舞台が広く使えます。ワキ座に作り物があると、シテはどうしてもその前にいなければなりません。するとだいぶん舞台に入り込んでしまいます。
作り物がなければシテはワキ座でも地謡座に奥まったところに居られます。その場合舞台が広く使えるので、後場で龍神2人は思う存分に動くことが出来ました。
また、この萩小屋をワキ座に置いた場合、正面から見るとワキ柱に隠れてしまいます。作り物に入っている時、シテの姿はほとんど見えません。
作り物が笛座前にあると、正面からもシテの姿がよく見え、ワキとのコトバのやりとりの時も、存在感が出ます。
今回は、楽しい能にしたいと思ったので、かなり遊び心を加えました。
前場の「楽」はかなり工夫しました。
本来の型は、ツレの旋陀夫人が舞っているのを、一角仙人は見ているだけなのですが、昨今では一緒に舞うやり方がよく演じられます。
今回は、「絶世の美女である旋陀夫人の舞に魅せられて、お酒に酔って気持ち良くなった一角仙人が真似をして一緒に舞う」、というコンセプトで演じてみました。
シテはツレの動きをキョロキョロ見ながら、少しずつ遅れて舞います。
この、少し遅れて舞うというのは案外難しいものです。何せ能面をかけているので相手は見えません。
「ツレは、この辺りを舞っているだろうなあ」と予想しながら、その予想よりあえて少し遅れて動きます。
ツレが華麗に袖を翻したりしますが、こちらはあえて下手に袖を動かしました。
ツレの後をヒョコヒョコとついていってツレが振り返ると驚いて後ずさってみせたり、途中ツレがシテを挑発するような仕草をみせると、それに惹かれてツレに近づくと見事にかわされたりと、様々な遊びを入れ込みました。
舞っているうちに、リズミに段々と慣れていくように工夫しました。
前半は、ツレの動きに大きく遅れるのですが、徐々に遅れは少なくなり、最後には一致するように舞ってみました。
後場は、当初は龍神を主体に型を考えました。龍神が最後まで2人で活躍できるように、工夫しました。
結果的に、龍神2人は大ハッスルでした。
当初は子供2人の予定だったのですが、今回は図らずも大人と子供の龍神コンビとなりました。
さすがに佐久間二郎さんは、カッコよく舞っています。並ぶとウチの子供のヘナチョコぶりが際立ちます。
まあ、大人に交じって次男は頑張っていました。
終演後、台風の影響で、豪雨となりました。
お客様は、ちょうど駅へ歩いていた頃だと思います。雨に逢った方、大変でした。
ある方が、こんなことを言っていました。
「龍神の演技が良かったから、雨が降ったのですよ」
確かに、「一角仙人」の最後は、一角仙人を打ち負かした龍神により
「大雨を降らし、洪水をいだして」天地に雨の恵みを与えます。
次男にそのことを伝えると、満面の笑みでした。