2019年08月22日
観世九皐会「春栄」
9月8日の観世九皐会 定例会にて能「春栄」を演じます。
この「春栄」という能は、かなり珍しい能です。長年能を愛好している人でも、見たことないという人は多いのではないでしょうか。
私も、能の地謡は一回しか謡ったことありません。
今から15年くらい前に、この能の地謡を謡った時、結構面白い能だなあと思いました。
また、舞台が静岡県三島市というのも、縁を感じました。
三島大社の神徳で、兄弟が助かるという筋立てです。
私の妻は、三島のお隣の沼津市出身で、子供の頃から七五三などで三島大社にはよくお参りをしていたそうです。
三島大社は、とても身近に感じる神社のようです。
私も沼津や富士、富士宮などで長年お弟子さんのお稽古をしているので、この地には愛着があります。
15年前に「春栄」を見て以来、いつか、この能を演じてみたいなあと思ったものです。
「春栄」の大きな特徴として、シテと子方が兄弟という点があります。
能において、シテと子方の関係は、多くは、親子や主君です。
私と子供が親子であることは、何の違和感がないのですが、「春栄」では子供と兄弟を演じなければなりません。
しかも「春栄」は能面を使わない能ですので、この素顔で演じないとならないのです。
ですから、子供があまり小さなうちは、子方として使うのは無理です。
せめて、身長がそれなりに大きくならないと、視覚的にあまりにも兄弟に見えません。
もっとも、この能の子方は謡や所作も多く、また少し芝居気を出して演技しないといけないので、もとより小さな子供では難しい役です。
そんなこんなで、子供が大きくなるのを待っていました。
今回、12歳となってかなり身長も伸びた次男と、念願の「春栄」を演じることとなりました。
この能は、子方が難しいということもあり、あまり上演はされませんが、かなり面白い劇的な能です。
弟・春栄が伊豆の三島で捕虜となっているのを聞いた兄の種直は、弟と一緒に自分も捕虜になろうと三島までやってきます。
ただ、弟は兄を家来だと言い放し、追い返そうとします。
逆上して自害しようとする兄を見て、弟は兄を助けるために嘘をついたことを詫びます。
かくして、兄弟はともに捕虜となり、いよいよ処刑されることとなります。
兄弟は、母に形見の品と手紙を従者に預け、静かに処刑を待ちます。
三島明神に祈りを捧げ、死を覚悟する兄弟。
看守の高橋が太刀を振り上げ、兄弟を斬ろうとしたその時、源頼朝からの使者が現れ、春栄を赦免するとの手紙を持ってきます。
首を斬られる寸前に命が助かった兄弟は、祝宴となり喜びの舞を舞います。
そして、兄弟ともに三島明神の御利益に感謝する。
こんな内容です。
かなり劇的な内容です。
特に、死を覚悟した兄弟が、寸前で使者によって命が助かる場面など、水戸黄門を見ているかのごとく爽快感があります。
次男は、妻が里帰り出産で産まれました。つまり次男にとっても所縁のある能です。
難しい子方ですが、一生懸命稽古しています。
ちょうど夏休みですので、暇があったら先週の「橋弁慶」と「春栄」を稽古しています。
また、この能は謡のコトバがべらぼうに多く、暗記が大変です。
私も夏の課題として、ずっと「春栄」の謡を覚える日々が続きます。
さあ、私にとっても大一番、次男にとっては子方の集大成ともいえる能です。
親子共々、張り切って演じます。
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kuwata_takashi at 23:31│Comments(0)│