「小督」御礼茉莉会@沼津御用邸

2014年10月12日

「松虫」 琴詩酒の友

台風が近づく中、九皐会定例会が無事に行われました。
番組は「道明寺」「松虫」です。私は「道明寺」の地謡と「松虫」のツレをいたしました。

「松虫」は、男の友情物語です。
シテの男は、松虫の鳴く音に死んでしまった友を偲び舞を舞います。

男の友達は、白楽天の詩にでてくる「琴詩酒の友」に例えられます。
文字通り、共に音楽と文学とお酒を愛する友達という意味でしょうか。

サシの段落では
「朝には落花を踏んで相伴って出づ。
 夕べには飛鳥に随って一時に帰る」
と称えられるほど、風流の友情で結ばれています。

さて、「松虫」のシテは九皐会でも酒好きで知られるK師。
前場に、シテの酒飲み友達として現れるのが、ツレ3人です。

シテのK師と同じく酒好きの私がツレでしたので、楽屋内では「ピッタリの配役だ」と盛り上がっていました。

私は「琴詩酒の友かあ、風流だなあ」 と感じました。
私とK師は、確かによく一緒に飲む間柄です。
でも、琴や詩の話なんか一度もしたことはありません。

まあ、能では風流の友として舞台に上がるのは悪い気はしません。

前場で、シテは友人の死んだ場面をこう語ります。

「昔この阿倍野の松原を。
ある人二人連れて通りしに。
折節松虫の声面白く聞こえしかば。
一人の友人。
かの虫の音を慕ひ行きしに。
今一人の友人。
やや久しく待てども帰らざりし程に。
心もとなく思ひ尋ね行きみれば。
かの者草露に臥して空しくなる。」

一見、美しい言葉で飾られていますが、要約すると

「昔、二人の男が酒を飲んで帰っていた。
そのうちの一人は、松虫の音に魅かれて草むらに入って行きました。
もう一人は、ずっと待っていたのですが、友人の帰りが遅いので、心配で後を尋ねました。
すると、友人は草むらに臥して死んでいました」

早い話が、酔っぱらってフラフラ歩いていたら、草むらに倒れて死んでしまったってことです。

ふと思いました。「その友人って、私のこと?」

ツレは舞台上でシテの酒飲み友達として舞台に上がっています。
そして、シテは自分は幽霊であると打ち明けます。
ということは、シテの友人として舞台にいるツレも幽霊ということです。

普通に考えて、シテが死を悲しんでいる友人って、一緒に幽霊として舞台に上がっている3人のうちどれかだよなあ。

私以外の2人はお酒をほとんど飲まないので「琴詩酒の友」にはなりえない。
ということは、私しか該当者がいません。

「松虫」は、好きな曲です。
とても美しい詞章で飾られたキレイな曲です。

でも、琴詩酒の友にしては、友人の死に様は情けない能です。


お酒はほどほどにしましょうという、教訓かも知れません。


kuwata_takashi at 20:00│Comments(0)TrackBack(0)

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