深川能舞台 建築記(7) 地鎮祭と順調な工事入院

2008年04月20日

深川能舞台 建築記(8) 能舞台

長らく連載していました「深川能舞台 建築記」も、いよいよ最終回です。

といっても、実はまだ追加工事が続いておりまして、家はまだまだ未完成です。
忙しくてなかなか記事を書けないので、連載という形では終了しますが、まだまだ書き足りないことが沢山あります。
折にふれ書いていこうかと思っております。


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さて、今回の建築で何に一番こだわったかと言いますと、やはり能の敷舞台です。
全体的には、あまりお金をかけずに質素な家なのですが、能舞台にはこだわりました。

右に画像をアップしました。こんな舞台です。

まず、広さはともかく三間四方の確保に努めました。
建築士さんの最初の案では、色々な観点を考慮して、舞台スペースは小さなものでした。
確かに普段の生活を考えたら、バランスの良い間取りだと思いました。
でも、私は不便を承知でこだわりました。

「舞台は絶対、三間四方欲しい!」

そのため、生活空間は狭く、使い難くはなりましたが、その分舞台は立派なものとなりました。
自分の活動拠点を持ちたいというのが、家を建てようと思った大きな理由ですので、後悔はしていません。


注文住宅というのは、たいへんな作業です。

自分の好きな家が建てられるということは、裏をかえせば、全てのパーツを自分で選択しなければならないということです。
それこそ、ドアのノブや畳のヘリまで選ばなければなりません。

それこそ、国内外にありとあらゆるメーカーの製品の中から自分の好みにあった物を一つ選択しなければなりません。

家を新築する殆どの人が同じだと思いますが、とりわけ家の素材に詳しくない私は、インテリアデザイナーの方に、基本的に選択はお任せしました。
だいたい、クロスや建具などは大きく三つぐらいのランクに分けて選べるように、絞ってもらったのです。

ランクの名前は、「高級品」「中級品」「量産品」
うまいネーミングです。

住居部分は、ほとんど量産品ですが、舞台部分は全て高級品を選びました。

肝心の舞台は、総檜造りです。
建てて頂いた地元の業者さんは、もともと木場で材木問屋も営んでいたので、その縁でずいぶん安く檜を仕入れていただきました。

安いと言っても、檜は檜。結構な値段がしました。

ただ、今自分の舞台に上がると、檜のなんとも言えない芳しい香りが漂ってきます。
すり足をした感触は、フローリングとは全く違います。
奮発して良かったと、心から思います。

下町の住宅密集地ですので、防音にはとにかく気を遣いました。

壁には防音のための吸収材を、ホームシアターなんかを作る人で防音を気にする人が入れる量の倍を入れました。
音は窓から漏れるそうですので、窓の面積を極力小さくして、防音サッシをいれてもらいました。
最近義務付けられている24時間換気口も防音タイプにするという、念の入れようです。

おかげで、深夜にフルパワーで謡っても、外にはかすかに声が漏れるだけという、完璧な防音室となりました。

能舞台には、やはり松の絵が欲しくなってきます。
いろいろツテを当たって、画家さんを探しました。
これに関しても、紆余曲折がありましたが、プライベートなことですので書くのはやめておきます。

最終的に、実は新居に入居してしばらく経っても、画家さんはまだ決まっていませんでした。
運命の出会いは、思わぬところにありました。

深川の街を買い物して歩いていましたら、面白い構えの店を見つけました。
店の名は「深川美術」というところでして、

「木でつくる御注文承ります」

と書いてあります。

その看板や説明書きは、古い書体の何とも言えない素敵な文字で書かれています。
ちょうど、表札と看板を作らなければと思っていた私は、その文字に惚れこみました。
ここにお願いしようと、店に飛び込んで見ました。

すると・・・
何故か高校生くらいの女の子が2~3人、キャンバスに向かって絵を描いています。

「あれ? 間違えた?」

呆然と立ち尽くしていると、中から如何にも下町の職人というお兄ちゃんが、出てきました。

「はい、深川美術ですが。ナンでしょう」

店構えから、もっと年配の人がやっているお店かと思いましたが、意外と若いご主人で面喰いました。
そして、イカツイ風貌に似合わないソフトな語り口に安心して、

「あの、、、ここは木を使って、、 表札や看板を作っていますか?」

「はい、やっていますよ」
「最近、近くに引っ越してきました。新居の表札やら看板やらを作っていただきたいのですが」
「はい、喜んで。ウチは、家のトータルなイメージで表札の形や書体を決めているので、一度家を見させていただけませんか?」
「それは願ってもないことです。我が家はこのすぐ近くですから、宜しければ今からお越し下さい」

良いお店に出会えたものです。
表札を作るのは、もちろん初めてなのですが、たかが表札を現地で下見して作るお店なんて、そうないと思います。

「丁寧な仕事をするところなんだろうな。良い表札が出来そうだ」

家に向かう道すがら、聞いてみました
「あのー。お店に入ったら、高校生くらいの女の子が絵を描いていたのですが、あれはいったい・・・」

「あ、ウチは絵画教室もやっているんですよ」

聞くと、店のご主人はウィーンで絵の勉強をした本格派の画家でもあるそうです。
そこで、ピカッと閃きました。
漫画なら、頭の上に電球が光っているはずです。

「店の表に、『木でつくる御注文承ります』と書いてあったのを見ました。木に関する御注文を請負いながら絵画教室をやっているってことは、木に絵を描いてくれたりするのですか?」

「ええ、それが専門です」

よし、これは良い展開だ

「あの・・・ 少し・・ いやかなり大きな木の板なのですが、書いてくださいますか?」
「大きいってどれくらいですか?」
「縦3メートル、横5メートルくらいです・・・」

「・・・・・  それはどんな絵ですか」

絶句するのも無理はない。私はそこで初めて自分は能楽師で、自分の能舞台を建てて、その鏡松を描いて下さる方を探しているという事情を話しました。

店のご主人は眼を輝かせました。

「それは、是非やってみたいです」

我が家に着いたら、表札や看板などそっちのけで松の絵の話です。
本当に、良い方に巡り合いました。

この「深川美術」は、後で聞くと、地元ではなかなか有名だそうです。
近所にある江戸時代風の面白い店構えの深川めし屋を設計したり、神社の修復をしたり、各方面の美術を手掛けていて、2か月ほど前のテレビ東京の「アド街っく天国」の門前仲町特集でも紹介されたそうです。

現在、下絵が完成して、色塗りが行われています。ダイナミックな良い松です。


「深川能舞台」の舞台披きは、5月6日の予定です。
それまでに、この段ボールだらけの家をなんとかしなくっちゃ・・・


at 21:57│

この記事へのコメント

1. Posted by ご近所   2008年04月21日 22:08
{電球}深川美術は資料館通りですか?
お舞台完成したら是非見学させてください。{笑顔}
          {晴れ着}白河三丁目の者より
2. Posted by クワタ   2008年04月22日 19:35
ご近所さま
深川美術のHPを載せておきます。
http://www12.milkcafe.to/~endai/
面白い所です。
ご主人の経歴も凄いですよ。
3. Posted by 荒野   2008年04月24日 10:03
桑田様
ご紹介いただきありがとうございます。
よろしくお願いいたします。
http://www.fukagawabijutsu.com
4. Posted by さくら川   2008年04月24日 23:12
桑田様
素晴しいお舞台ですねえ、老松が待たれます、楽しみです。
腰痛とも戦いながら、よくぞ、ここまで頑張って来られましたねえ。
毎回、ほんとにドキドキ・ワクワクしながら読ませて頂きました。
今迄の、数々のいいお出会いも、深川美術さんとのお出会いも
一見、偶然の様に見えますが、それは、偶然ではないのです。
故郷・広島の氏神様と富が岡八幡宮の御加護だと思います。
そして、桑田様の能へのひたむきな生き方に対して、
能聖・世阿弥からの大きな贈り物ではないでしょうか。
なんか、神懸かりめいて、マユツバものみたいですね。
でもこれは、やはり人智を超えた大きなうねりの結果でしょう。
本当におめでとうございます。
5月6日が、晴天でありますように・・・。
5. Posted by クワタ   2008年05月03日 00:10
荒野さま
今回は、素敵な松と表札・看板を有難うございました。
これからも何かとお願いすると思います。
どうぞ宜しくお願いいたします。
6. Posted by クワタ   2008年05月03日 00:13
さくら川さま
返信が遅くなりました。
遅くなった理由は、最新記事をご覧下さい。
こんなに褒められると、なんとコメントを返せばいいのか悩みます。
いつも熱心に読んで下さいまして、有難うございます。
深川能舞台 建築記(7) 地鎮祭と順調な工事入院