2025年12月

2025年12月31日

御礼 2025年

25.06.29 能まつり (193)

激動の2025年も、いよいよ暮れようとしています。
無事に年を越せる喜びを、今年も感じます。

今年も様々なことがありました。

まず、1月から3月は恒例となっているシンガポールの演劇学校での能の指導です。
二回渡航し、合わせると5週間以上もシンガポールで能の指導をしました。
常夏のシンガポールで、7か国から集まってきた学生たちと熱く濃密な時間を過ごしました。

3月は、左膝半月板切除手術のため一週間入院しました。6月にある「道成寺」のため、思い切って手術を決断しました。
6月に向けての長い治療とリハビリの始まりです。
全身麻酔により朦朧とする意識の中で、病室の天井を見ながら、「一刻も早く舞台に復帰するんだ」と強く決意したことは忘れられません。

二ヶ月のリハビリの末、5月には能「蝉丸」で舞台復帰しました。
舞台上で、能面の穴から見える狭い視界から見所を眺めた時の感慨は、ひとしおでした。
「また、ここに戻ってこれた」
嬉しさで視界が曇ってしまいました。

6月は、「道成寺 赤頭」です。
二度目の道成寺は、完全燃焼でした。演じている時は膝の痛みは忘れ、ベストの道成寺が出来たと自負します。

8月は、深川八幡祭能奉納に、二ノ宮神輿渡御。
深川の夏は、本当にアツイ。

9月は九皐会「阿漕」。
11月は、社中のおさらい会を二週連続で静岡と東京でいたしました。
12月は緑泉会「楊貴妃」。
夏から秋にかけて本当に忙しかったです。

左膝は、まだまだ万全とは言い難いですが、順調に快復しています。
日常生活に支障は、ほとんどありません。


今年も様々な能を演じました。

5月11日  「蝉丸   九皐会
6月29日  「道成寺 赤頭」 能まつり
8月14日  「敦盛」  深川八幡祭 能奉納
9月14日  「阿漕」  九皐会
10月6日  「敦盛」  文化庁巡回公演
12月6日  「楊貴妃」 緑泉会
12月12日  「翁」  九皐会稽古能

非公開の稽古能を合わせると7番もの能を演じる機会を得ました。
どれも心に残る舞台でした。
今年終了時点で、能楽師になって以来演じた能は164番となりました。
ここ数年、毎年6~7番も演じさせていただいております。

今年も、多くの方々にお世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。


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2025年12月30日

1月観世九皐会「翁」

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2026年の幕開けの、観世九皐会一月定例会にて「翁」を披きます。

ついに「翁」かあ

感慨ひとしおです。

そもそも能楽の一座は、「翁」を演じるために作られたものです。
その一座の太夫または太夫に準ずる長老が、座を代表して演じる神聖な儀礼的芸能が「翁」でした。

それが、段々とストーリーのある演劇的な能や狂言を演じるようになり、今のような能楽の公演形式になりました。

現在においても、「翁」は基本的に一門の当主が演じるものです。私のような、いち門下が演じることはなかなかありません。
ただ、九皐会門下では、師匠の計らいで門下でも演じる機会を与えられます。

能楽師として、「翁」を演じる機会を得たことを、この上なく感謝いたします。

いよいよ、上演まで2週間をきりました。

能を演じるときは、普通は一度だけリハーサル(申合)を行い、本番を迎えます。
しかし、「道成寺」や「翁」など特別な演目の時は、申合のひと月くらい前に下申合といってもう一回リハーサルを設けます。

その下申合は、12月12日に終えました。
12月6日に演じた緑泉会「楊貴妃」の直後だったので、大変でした。
(その週は、他にも能「安達原」と能「項羽」の地頭があり、大変な一週間でした)

下申合で生じた数々の課題を、消化して当日を迎えたいと思います。


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2025年12月06日

「楊貴妃」御礼

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緑泉会「楊貴妃」、首尾よく終わりました。
多くのお客様にお運びいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

「楊貴妃」は、ずっと憧れていた能です。
学生時代、今の師匠・観世喜之師が演じる楊貴妃を観て、「何と美しい能なんだろう」とポーっとしたことをよく覚えています。

当時は、後に喜之師の下に弟子入りして能楽師修業を始めるなんてことは思いもよらない頃でした。
思えば、師匠の能を始めて鑑賞したのが楊貴妃でした。
私にとって楊貴妃のイメージは、この体験です。能楽師になって以来、「いつか、あんなに綺麗な能を演じてみたい」と思い続けていました。


楊貴妃という能では、毎回装束にも趣向を凝らします。
何せ世界三大美女に挙げられる女性を演じるのですから、出で立ちからうっとりするくらい美しくなければなりません。

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今回は、本来の唐織壺折りの上に、側次(そばつぎ)という袖の無い装束を重ね着しました。
側次は、中国物ではよく使用される装束です。
異国情緒溢れる出で立ちとなります。

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いかにもエキゾチックな美女です。

この能は、天冠の上に立てる鳳凰の立て物をかんざしに見立てて、ワキに渡します。
舞を舞う前には再びつけますが、ワキに渡している間は、立て物がない天冠という珍しい状態となります。
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この鳳凰は、後見によって手渡されます。先輩たちから真っすぐ持つのは案外難しいと聞いておりました。
写真を見ると、見事に曲がっています。
能面を着けると手元は全く見えません。手に持った感覚のみで真っすぐ持つのは、本当に難しいのです。
写真を見るまで、自分では真っすぐ持っていないことに気が付きませんでした。


この能は、いかに綺麗に気品を持って謡い、そして舞うことが出来るかが問われます。
一つ一つの所作や型を、とにかく丁寧に演じることを心掛けました。

舞も極めてゆっくり動きます。
ゆっくりとした動きでは、下半身を安定させて動かないと身体がぐらついてしまいます。

能面を着けて視界が制限され、さらに能装束を着てたいそう動きにくい状態では、早く動くよりゆっくり動く方が、身体を安定させるのは難しいものです。
自転車を乗る時をイメージしていただければ良いかと思います。
身体をふらつかせないで、ゆっくりとした速度で自転車に乗るのは、かなりたいへんかと思いますが、そんな感じです。

下半身に力を込めてすり足で運ぶと、膝にたいへんな負担がかかります。
3月に半月板損傷の手術をした左膝は、かなり良くなってきましたが、こういったゆっくりとした動きではけっこう膝にきます。
これだけゆっくりとした動きでも、何とか身体を支えられたので、膝もだいぶん回復しているのだと思います。

最後は、仙界に一人取り残される楊貴妃。
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この場面は、演じていて良い気分になりました。
終演後、シーンと水を打ったように静まり返る能楽堂内を、ゆっくり幕へ帰ります。
ここで、少しでも気を抜いて弛んで動くと、今まで積み上げた「楊貴妃」の世界観が崩れます。
細心の注意を払って作り物から出て、気品を持って幕へ進みました。

静寂が場内を支配する静寂が、心地よかったです。


50を超えたおじさんである私が、絶世の美女・楊貴妃を演じることが出来るのが能という演劇のすばらしさです。


kuwata_takashi at 23:00|PermalinkComments(0)