2023年09月

2023年09月18日

「絵馬」御礼

緑泉会「絵馬」、無事に終了いたしました。

去年まで使っていた喜多能楽堂が改装中なので、今年は矢来能楽堂での開催です。

九皐会のホームグランドである矢来能楽堂は、勝手知った舞台です。やはり圧倒的に演じ易いですね。

 

今回の緑泉会は能が一番しかないので、「絵馬」という大掛かりな能を演じさせていただきました。

「絵馬」は、ツレが3人も登場し、また大掛かりな作り物も必要です。

中入の装束替えも慌ただしいし、上演するのはかなり大変な能です。

 

その分、エンターテインメント性豊かな演目と言えます。

私も楽しんで演じました。

 

さて、この日も残暑厳しく、最高気温は33度でした。

お運びくださいましたお客様は、さぞかし大変であったことと思います。

 

当然、舞台上の演者もハードでした。

「こんな暑い中、こんな分厚い装束をよく着るものだなあ」と、自嘲ぎみにつぶやきます。

 

さて「絵馬」は、前場はほのぼのとした内容です。

一年の天気の祈願に、白い馬の絵馬をかけてお日様の恵みを求めるシテと、黒い馬の絵馬に雨の恵みをかけるツレが言い争いをします。結局は、両方の絵馬をかけて、お互い喜びます。

23.09.18 緑泉会(88)1
 

シテとツレは、言い争いをしますが本当に喧嘩しているわけではなく、言葉遊びを楽しんでいる風情です。ほんわかとしたやり取りとなるように、謡の声を荒くならないように気を付けました。

二人で社殿にそれぞれの絵馬をかけるシーンは、何ともほのぼのしたシーンでした。

 

後場は、一転して荘厳な神話の世界です。

八百万の神々の頂点に君臨する天照大神がシテです。大ぶりに堂々と演じるよう心掛けました。

 

直衣という、能の装束の中でも天皇などに用いる大変格式の高い装束を着せていただきました。

なかなか良い雰囲気で舞えたと思います。

 

ゆったりとした中之舞を舞うと、ここからいよいよ「天の岩戸隠れ」の神話です。

天の岩戸を表す作り物の中に入って身を隠します。

23.09.18 緑泉会(155)
 

この作り物は、四方を布で覆われていて、姿が完全に隠れます。

能の作り物って、出入りのためにだいたいどこかは空いておりますが、この作り物は観音開きの扉を開けて中に入ると、360度完全に姿が隠れます。

こんな作り物は、他には道成寺の鐘しかありません。

 

道成寺の鐘の中では、必死になって装束を替えていますのでくつろぐことは出来ませんが、この「絵馬」の場合、作り物に入ると、少しホッとしました。

狭くて暑くて暗い作り物の中ですが、身体を楽にして少し休めます。

舞台では、後ツレが懸命の舞っているのに、舞台の真ん中でシテがくつろいでいるのは、なんとも可笑しな気分です。

 

ただ、完全にボーっとする訳にいきません。

ツレの舞の後、シテの謡があります。

ツレの姿は全く見えないので、ボーっとしていると終わりがどこだか分かりません。

囃子の演奏は、基本的に同じフレーズの繰り返しなので、よく聞いていないと、どこを演奏しているかわからなくなってしまいます。作り物の中で、懸命に囃子の演奏を聞いていました。

23.09.18 緑泉会(183)

ちょっと扉を開くと

23.09.18 緑泉会(192)

すかさず
手力雄命と天鈿女命に作り物の中から引きずり出されます。視覚的に面白いシーンです。


 

後場は、シテの天照大神、ツレのと手力雄命、三人の神様たちと楽しく演じられました。

三人の神様が居並ぶシーンは、とても有難い感じがします。

23.09.18 緑泉会(127)


神様を身近に感じていた昔は、きっと「ありがたや、ありがたや」と手を合わせる人もいたかもしれません。

 

今回の舞台は充実していたなあと、終わってシミジミ思いました。




kuwata_takashi at 19:30|PermalinkComments(0)

2023年09月15日

「絵馬」申合 ハードな一日

img20230808_19451510 (2)

今日は、3日後の迫ってきた緑泉会「絵馬」の申合でした。

朝9:30から、申合が始まります。
「絵馬」はツレも多く登場し、お囃子との兼ね合いも多い能なので、丹念に打ち合わせをしました。

色んな課題も出てきました。当日までに調整したいと思います。

さて、能のシテを演じる時、いつもは申合の後は休息日にしております。
申合とはいえ、能を一番演じた後は大変疲労します。
また、装束や能によっては作り物の準備等もあります。
それに、申合で生じた課題を調整するために、しっかりと稽古する必要があります。

だから、申合の後はあまり仕事を入れないのですが、今日は仕方がありません。
17日にある九皐会定例会の申合が、午後よりありました。

今月の九皐会では「梅枝」の地謡がついております。
観世流では、8人編成の地謡のうち後列の真ん中の左側が地頭という地謡のリーダーとなります。
地頭はある意味、一番の能にとってシテより重要な地位と言えます。
その両脇で謡う人は、地頭の意図をくんで、サポートする役となります。このポジションもかなり重い責任が生じます。

私は、九皐会の序列的に地謡では前列で謡うことがほとんどですが、この日は、地頭の左となり(地謡のナンバー3)の場所で謡うことになりました。
「梅枝」は、なかなかややこしい能です。大曲と言って差し支えないでしょう。
この難曲において、うまく地頭をサポートして謡わなければなりません。

たいへんな緊張感の中、なかなかしんどい思いをしながらなんとか乗り切りました。

今日は、これで終わりでありません。

九皐会申合のあと、来月の九皐会で上演される「春日龍神」の稽古能がありました。
この「春日龍神」では、なんと地頭の大役を頂いております。

地頭。。。。

何度かこの日記でも書いておりますが、シテより緊張します。
責任重大です。


今日は、何という日でしょう。
能のシテ、難曲の重要なポジション、能の地頭。

どれも、めったにないことです。
シテは年に3~4回、能の地頭は年に1~2回です。定例会の難曲で地謡を後列で謡うことなど、初めての経験です。

なぜ、この日にいっぺんに回ってくるのでしょう。。。

今日にむけて、この2週間くらい緊張しっぱなしでした。
何とか乗り切り、心の底からホッとしました。

今日重なった、「絵馬」のシテ、「梅枝」の後列、「春日龍神」の地頭。
これは、いずれもまだ終わっていません。それぞれ本番があります。

でも、本番は一つずつです。
今日を乗り切った今、けっこう気楽に望めそうです。


kuwata_takashi at 21:30|PermalinkComments(0)