2023年03月
2023年03月11日
2023シンガポール第2便 5
稽古も総仕上げに入っています。
やはり演劇を志す学生たちですので、動きはすぐに覚えてしまいます。
でも、やはり日本語の謡がなかなか覚えられないようです。
何年か前この学校の校長先生に、日本語がなかなか覚えられないのはしょうがない。特に発音は難しいから、その辺は加減しようと思います。
といったら、校長先生は、「イヤ、手加減なしで指導してくれ」とおっしゃいました。
学生たちは、卒業後様々な場所で演劇活動をやっていくだろう。ひょっとしたら、日本人の役をするかも知れない。日本語の台詞を言わなければならないかも知れない。
そんな時「日本語は分からないので、台詞覚えられません」では、役者失格だ。
私は、なかなか謡が覚えられない学生を叱り、この校長先生の言葉を告げました。
役者として、台詞を覚えるのは当たり前。
厳しく指導しているうちに、ほぼ謡えるようになってきました。
日本人でもなかなか謡えない、能の謡を、日本語が全く分からない外国人がスラスラ謡っている姿は壮観です。
能面と簡単な装束も使用して、本格的な稽古となっています。


これは、能「邯鄲」で寝る型をしています。決して休んでいるのではありません。

能「紅葉狩」で、ワキを酒宴に誘うシテ。今で言う逆ナンです。

「紅葉狩」の後場

これは「竹生島」の前場です。

能面はこのように、自分たちで着けさせています。
最初に「O A TA RI(お当たり)」と、紐を締める場所を聞いて、次に「O SHI MA RI(お締まり)」と、紐の締まり具合を聞きます。
玄人の能の作法通りに着けさせています。
2023年03月08日
2023シンガポール第2便 4
3月15日の発表会を迎えて、稽古も熱を帯びてきました。
例年は「邯鄲」と「紅葉狩」の2つの能を上演しますが、今回は人数が多いのでもう1曲「竹生島」を加えました。
能が3曲になり、教える方は大変です。
ただ、能に懸命に取り組む学生たちの姿を見ると、その苦労は吹き飛びます。
日本語が全く分からない外国人が、能の舞台の成功にむけて一生懸命に稽古をしている姿を見ると、胸が熱くなります。
わりに動きが多くてストーリーがはっきりしている「邯鄲」と「紅葉狩」に比べて、「竹生島」は能らしい能です。
後場は、天女の美しい舞と龍神の力強い舞を楽しむ内容ですが、前場は地味な内容です。
「舟に乗って、竹生島に渡って、ワキを竹生島明神に案内して自分たちの正体を明かす」
これだけです。動きもそんなにありません。
始めは、動きと舞の多い後場を中心に上演しようと思いましたが、学生たちに稽古をしているうちに考えが変わりました。
彼らは、役者であり身体能力は抜群です。能の仕舞などもすぐに覚えてしまします。
また、上級生はアジアの色んな古典演劇を既に学んでいます。京劇などとても激しい動きだったそうです。
「そういった学生たちは、むしろ止まっている演技を教えた方が良いのではないだろうか」
世阿弥は能の演技を「せぬところが美しき」と言いました。
何もせずに止まっているところが美しくなければ能は成り立ちません。
自分を殺して、ずっと立っている。またはずっと座っている。
これこそが、能らしいと言えます。
せっかくだからこういう能らしさを、しっかり学んでほしいと思い、「竹生島」の前場もしっかりやらせることにしました。
さあ、あと一週間で発表会です。
2023年03月07日
2023シンガポール第2便 3
4年前の能のクラスの学生と通訳です。
シンガポールの演劇学校も、21年も教えているといろいろな人の繋がりが出来ました。
今の学校の先生には、21年前に指導した第一期生の学生もいます。
そういった人々が、こうして能のクラスに訪ねてくるのはとても嬉しいです。
稽古の後、学校の中庭にてお決まりのタイガータイムを開きました。
まず、4年前通訳をしてくれた、ヤグニャ。

彼女はインド系シンガポール人ですが、日本が大好きな人です。
日本にも3年ほど暮らしたことがあり、日本人より日本人らしいシンガポール人です。
日本の古典芸能に造詣が深く、能も大好きなのだそうです。
「能の仕事が出来て嬉しい。というより、これって仕事かしら?」
と、喜んで通訳をしてくださいました。
今は、若手演出家としてシンガポールで大活躍です。シンガポールの新聞の演劇賞にノミネートされたりしています。
ちなみに、私が着ている「Oh Noh お能」というTシャツは、彼女の友人のシンガポール人がデザインしたシャツです。その友達も、とても日本びいきだそうです。
限定品を、学校のスタッフからいただきました。

続いて、2004年からこの学校の活動を、ずっと注目している日本人の栗田さんと、4年前にオーストラリアからこの学校に留学していたサミュエルです。
栗田さんは、2004年のころは、インドの演劇を研究していた学生でした。
インドの役者の友達がこの学校で学んでいるので、能の発表会を見に来てくれたのでした。
それ以来、シンガポールでも東京でも、ちょくちょく会っています。
思えば長い付き合いです。
今は、大学の先生をしていますが、ちょうど研究のためにシンガポールに滞在していたので、学校に遊びに来てくれました。
サミュエルは、日本好きのオーストラリア人です。
去年の夏にも、同じく4年前の学生のインド人と日本に来ていました。
東京で能楽堂に招待して、一緒に食事をしました。
シンガポールでいつも飲んでいるタイガービールではなく、アサヒビールを飲んだので、「タイガータイムではなくアサヒタイムだ」と言って大喜びでした。
その時、栗田さんと意気投合してすっかり仲良しになりました。
サミュエルは絵が得意で、学校の扉にこんな絵を書いて、それを置き土産にオーストラリアへ帰ったのです。

腕には、こんな彫り物をしています。

続いて、4年前の学生のリエンです。

向かって左がリエン、右が今回の学生のユアン・チーです。
彼女たちは今、ルームメイトだそうです。
4年前の話に花が咲きました。
楽しいひと時でした。
おまけ

気が付いたら、タイガービールの箱で能面を作っていました。
これが本当のタイガーマスク。
2023年03月05日
2023シンガポール第2便 2

シンガポールで学生に能の指導を始めて3週間が経ちました。
シンガポール生活にもすっかり慣れました。
毎回シンガポールに来ると驚くのが、その成長ぶりです。
どんどん進化し、洗練された都市になっています。
21年前は2路線しかなかった地下鉄は、今は7路線あります。しかも、年々延長されています。
そして物価の上昇ぶりにも驚きます。
初めてシンガポールに訪れたのは、21年前でした。
その時は、「ああ、シンガポールは何でも安いなあ」と思っていました。
それが10年位前から、「もう、日本で買うのと変わらないなあ」となり、
今回は、「シンガポールは何でも高くて、とても買い物なんか出来ない」
に変わりました。
そもそもの物価高に加えて、最近の円安が大きく響いています。
4年前まで、1シンガポールドルは70円位でした。それが今は100円位します。
例えば4年前3ドルのものが、今4ドル位に値上がっていたとします。
4年前は210円位で買えたものが、今は400円します。
感覚的に、4年間で2倍くらい物価が上がっている感じです。
初めて来た20年前などは、よくガイドブックに載っているようなレストランに行ったりしましたが、今は、現地の人がよく行くホーカーズ(屋台村)にしか行きません。
ホテルも学校もリトルインディアというインド人街にあるので、食事はインドカレーばかり食べています。
最初は、珍しくて色々食べましたが、最近はさすがに食傷ぎみ。
シンガポールのローカルフードを食べるために、ちょっと遠くのホーカーズまで遠征することもあります。
南国の太陽がさんさんと降り注ぐ常夏の楽園のイメージですが、今は雨季なので雨ばっかり降っています。
雨季とは言うものの、そんなに毎日雨ばかり降るものではありません。それに、南国特有のスコールは、ざっと降ってはすぐやみます。日本みたいにシトシト一日中雨が降っているわけではありません。
しかし、最近は異常気象だそうで、毎日雨ばっかり降っています。今週太陽をほとんど見ていません。
かなり激しい雨が、終日降っています。「こんなこと珍しい。経験したことない」と、シンガポール人も言っていました。

今週の天気はこんな感じです。にわか雷雨という天気予報が、けっこうおかしいです。
見ての通り、最近は30度を超えることもなく、35度を超す東京の夏に比べると、涼しくて過ごしやすい毎日です。
朝晩は、半袖だとちょっと肌寒さを感じます。
半袖しか持ってきていないので、少々困っています。
3週間も稽古しているので、学生たちとも打ち解けてきました。
最初は、髭顔のインド人や発音の難しい中国系の学生やフィリピン人など、なかなか区別がつきませんでしたが、今はあだ名で呼んだりします。
稽古後に一緒に飲む機会(タイガータイム)も増えてきました。

2023年03月01日
2023シンガポール第2便 1

再びシンガポールに来ています。
3日間空けていただけです。宿泊しているところは、2か月契約のホテルなので、荷物も置きっぱなしです。
学生たちは、早くも3月15日の発表会に向けて、能の稽古をしています。
例年は、能「邯鄲」「紅葉狩」の2曲に取り組むのですが、今年は人数も多いので、もう1曲「竹生島」にも挑戦します。
急ピッチで稽古を仕上げています。


能「紅葉狩」と「邯鄲」は、配役を変えて色んな学生に経験させています。
かなり難しいことをやらせていますが、学生たちは頑張ってついてきています。
今回の稽古は、3日間の中断をはさみましたが、5週間ほぼぶっ通しで私がお稽古を担当しています。
前半の3週間は、観世喜正先生が基礎をしっかり教えてくださいましたので、私はいきなり応用編として能の稽古を絶え間なく取り組んでいます。
なかなか上達してきました。
明日から、2週間後に迫った発表会に向けて、総仕上げの稽古です。
能の配役も決めて、実践的に稽古します。