2021年10月
2021年10月20日
東京にいながら、シンガポールまたはインド

先週、私が能の指導に行っておりますシンガポールの演劇学校(Intercultural Theatre Institute)で、演劇公演がありました。
この学校は、1年生と2年生は様々な基礎トレーニングの授業を受け、3年生は演劇公演を中心に実践的なトレーニングを行うカリキュラムを組んでいます。
その基礎トレーニングの目玉としてアジアの古典演劇を学びます。
必修科目は、日本の能、中国の京劇、インドのクーリヤッタム、インドネシアのワーヤン・オンです。
私は、その能の稽古の講師をしております。
昨年に引き続き、オンラインでの卒業公演でしたので、日本にいながらリアルタイムで鑑賞できました。
新型コロナウイルスの影響は、シンガポールの演劇界でも大変なもののようです。
この演劇学校においても、授業や公演などで大きな制限があります。
私も、本来は今年の春に能の指導に行く予定でしたが、とてもシンガポールへ渡航できる状況ではありませんでした。
能の授業は、結局延期されました。
こういった難しい時節の中、演劇に取り組み、卒業公演を迎えた学生たちの苦労は大変なものであったことでしょう。
本当はお客様の前で、演じたかったはずなのですが、無観客のオンライン開催となってしまった彼らの胸中は、察するに余りあります。
しかし、本来はシンガポールにいなければ見ることができない彼らの卒業公演を、日本で鑑賞できるのは、私にとってはうれしいことです。
今の3年生は、2年前に能を教えた学生たちです。
2年たつと、だいぶん風貌も雰囲気も変わってきます。
2年前は入学したばかりの新入生だった彼らは、能の稽古でもぎこちなく、オドオドしたところなども見受けられました。
そんな彼らの堂々としたパフォーマンスに、圧倒されました。立派な演技でした。
それぞれが、20分ほどの短いパフォーマンスを演じていました。
歌あり、ダンスあり、語りありと、それぞれの学生たちの個性が見て取れました。
彼らの2年間の鍛錬の様子がうかがえます。
コロナ禍において、いろいろな苦労を強いられたことでしょう。
そんな中で、このような公演を作り上げた彼らの頑張りを思い、目頭が熱くなりました。
そこには、2年前に能の謡や仕舞にオロオロしていた彼らの姿はありません。
ひとかどの役者として、素晴らしいパフォーマンスを演じていました。
嬉しいひと時でした。
その後、今度は去年の卒業生から連絡が来ました。
その卒業生は、インドの古典芸能であるクーリヤッタムの役者として活躍しています。
クーリヤッタムとは、世界でも最も古い演劇の一つであり、2001年にユネスコから世界無形文化遺産の第一回の指定に、能と共に選ばれました。
この第一回の指定の時は、ユネスコ加盟国200か国ほどの中から17の文化遺産が選ばれました。その中に能もクーリヤッタムも入っています。
私は、クーリヤッタムの日本公演を見たことありますが、能とよく似た演劇で、その迫力に圧倒されたことをよく覚えています。
そんな彼から、クーリヤッタムのオンライン配信があるから見てくださいとのメッセージが届きました。

久しぶりに見るクーリヤッタム。
卒業生の彼の、華麗なる演技に圧倒されました。
彼は、クーリヤッタムの役者でありながら、シンガポールの演劇学校に入学しました。
そこで彼は、多くのことを学んだことでしょう。
私が能を教えた時も、さすがに現役のクーリヤッタムの役者だけあって、体の切れは抜群でした。
そんな彼が、インドに帰国して、クーリヤッタムの舞台に出演しています。
きっと、シンガポールの演劇学校で学んだことが、おおいに生かされているパフォーマンスであったに違いありません。
パソコンの画面にくぎ付けでした。
今回、シンガポールの演劇学校の卒業公演、インドのクーリヤッタム公演と、続けて観る機会を得ました。
自宅で、シンガポールとインドのパフォーマンスをリアルタイムで鑑賞することが出来るなんて、便利な世の中になったものです。
kuwata_takashi at 18:35|Permalink│Comments(0)│