2021年09月
2021年09月25日
深川江戸資料館「秋の能楽初め」
毎年恒例の深川江戸資料館にての「能楽初め」
今回で7回目の開催となりました。
例年は正月に行っておりましたが、今年度はこの深川江戸資料館が11月から耐震工事に入るので、「秋の能楽初め」と題して、秋開催といたしました。
上の写真は、何年か前のものです。
コロナ禍の中、お客様がどれほどお運びいただけるか心配しましたが、杞憂でした。
立ち見も出るほどの大盛況でした。
ご来場の皆様、ありがとうございます。この場を借りて御礼申し上げます。
前回は、コロナ禍を鑑みて謡はほとんど謡わずに舞を中心にしましたが、今回は資料館が透明なパーテーションを用意してくださいましたので、飛沫感染も最小限に抑えられることから、謡も存分に紹介しました。
今回は「能の五番立て」をテーマにして、能の五つのジャンル「神・男・女・狂・鬼」のジャンル分けの説明と、それぞれの代表曲「高砂」「屋島」「羽衣」「桜川」「殺生石」の仕舞を舞いました。
地元・深川での能の発信イベントとして、大事にしていきたいと思います。
2021年09月19日
「鵜飼」御礼
緑泉会にて能「鵜飼」を演じました。ご来場の皆様、ありがとうございました。
前日は、高知で「羽衣」の地謡と「安宅」のツレ山伏を勤めて疲労困憊でしたが、今日は朝起きると元気一杯です。
やはり、シテの日はアドレナリンが出るのでしょうか。まったく疲れも感じませんでしたが、大事をとって午前中は身体を休め、いつもより遅く楽屋入りしました。
「鵜飼」は、前シテが独特な能です。
卑しい身分の老人という、能にしては珍しい役柄です。難しい表現になります。
あまり立派に演じるわけにはいきませんが、かといってショボクレた老人になっては能になりません。
前シテは謡が多いので、気を使いました。
あまり、直接的に力が現れないように、身体内に力を込めて演じました。
「何だかただ者ではない老人の存在感」を出そうと工夫しました。
そんな普通ではない力加減で演じていたので、前場はいつも以上に疲れました。
力を外に発散して直接的に演じる方が、やはりやり易いですね。
前場の見どころは、生前の鵜を使って魚を取りまくる場面を再現する「鵜之段」と呼ばれる場面です。
ここは、前場の最後の場面です。
それまで終始、力を内に込めて抑えた演技をしていましたが、ここで蓄えたエネルギーを一気に放出しました。
一心不乱に魚を捕る様を、少々強めに演じました。
これは、ある兄弟子の舞台を参考にしました。
その兄弟子は、たいそう釣り好きで、ちょくちょく釣りに出かけています。
その兄弟子が「鵜飼」を演じた時、「鵜之段」がすごい迫力だったので、他の兄弟子が「老人の舞だから、もう少し抑えた方が良いのでは」とアドバイスをしていました。
するとその兄弟子は涼しい顔をして言いました。
「何言っているんだ、釣り場では老人の方がよっぽど元気だぞ。みんなすごい勢いで、生き生きとして魚をとってるものだよ。」
なるほど、実体験に元づいた演技には説得力があります。
私もその兄弟子のように、勢いよく、生き生きと魚を捕る様を演じました。
さて後場ですが、後シテは閻魔大王という分かりやすい役柄です。
大ぶりにドッシリと演じました。
こういう役柄は、力を外に発散できますのでやり易いものです。
あらん限りの力をぶつけて謡い、舞いました。
飛び安座という、能の中でも最も派手な大技(飛び上がって、空中で安座の姿勢を作ってそのまま舞台へ着地するという危険な型)も、キッチリ決まりました。
50歳となって初めて演じた能でした。
前に書きましたが、50代は能楽師として全盛期です。
生涯で一番良い能を、常に演じていきたいと思います。
そして、毎回の生涯一番の能を更新していきたいと思っています。
ところで、我が家の近くには法乗院(深川えんま堂)というお寺があります。
そこには高さ3.5m、幅4.5mという日本一の大きさを誇る閻魔大王座像があります。
今回、「鵜飼」を演じるにあたって、神妙にお参りいたしました。
ごらんの通り、すごい迫力です。
この閻魔大王の迫力を胸に焼き付けて、今回の舞台は演じました。
2021年09月17日
台風の中、高知へ
しかし、緊急事態宣言を受けて行われる公演は月曜日の広島と土曜日の高知公演のみです。
当初の予定では、今日は松江から高知へ移動する日でした。
松江と高知は、近いようでとても行き難い場所です。結局、松江→東京→高知と飛行機で移動するのが1番楽でした。
元々の予定では、松江から羽田空港へ戻り最終の高知行きの飛行機に乗り換えて高知を目指す予定でした。
しかし松江公演がなくなってしまったので、今日は飛行機を午前の便に振り替えて、早めに高知入りすることにしました。
結果的に大正解でした。
羽田空港に行ってビックリ午後の便は台風で全て欠航。
運行しているのは私が予約している便だけでした。
その便も、高知空港に着陸できない時は羽田空港に引き返すという条件付きです。
以前、高知公演の折に高知空港上空まで来たのに、視界が悪くて着陸できずに羽田空港に引き返したことがあります。
その時のことを思い出しました。
台風のため、飛行機はすごい揺れです。今までずいぶん飛行機に乗りましたが、その中でも最大級の揺れです。
なんやかんやと高知空港上空まで来ました。
以前引き返した時も、ここまでは順調でした。
その後、上空を旋回しながら着陸を2回試みましたが、視界不良で着陸出来ずに、結局羽田空港に引き返したのです。
着陸体制に入った時、祈りました。
「頼みます。ここで引き返したら、もう今日中に高知へ行くことは出来ない。何とかして、滑走路に降りてくれ」
祈りが通じたのか、首尾良く着陸出来ました。
ただいま、高知でのんびりしています。
さあ、明日は高知県立美術館 能楽堂で「羽衣」と「安宅」です。
2021年09月13日
広島 弾丸ツアー
何度も書いていますが、地頭は地謡のリーダーとして能の中でもシテに匹敵する重要な役です。
地頭を勤めるときは、シテを演じるよりずっと緊張します。
去年に続いて二度目の地頭です。去年よりは余裕を持って出来たかなあと思います。
さて、この日は長い1日です。
九皐会が終わると、来週高知で演じるより「安宅」 の申合です。終わるともう18時過ぎでした。
そこから猛ダッシュで東京駅に向かいます。
19時の新幹線に乗って広島を目指します。
広島のホテルに着いたのは日付が変わる頃でした。
明けて月曜日は朝7時30分集合です。
広島市内の小学校で文化庁巡回公演でした。
本来はこの一週間で広島、倉敷、岡山、松江と回って土曜日の高知公演に移動する予定でしたが、緊急事態宣言を受けて、倉敷、岡山、松江の公演は延期になりました。
1校だけ行った巡回公演が終わったのはお昼前。お好み焼きを食べて家へ帰りました。
帰宅したのは18時前。
昨日東京を出発してまだ23時間しか経っておりません。
はあ、疲れた。
日曜月曜と濃密な時間を過ごしました。
帰りの飛行機から眺めた富士山がキレイだったので写真を撮りました。
2021年09月10日
緑泉会「鵜飼」ご案内
9月19日(日)緑泉会にて能「鵜飼」を演じます。
コロナと共に生きていかなければならない日々の中、今までとは違う行動様式が求められます。そんな時節だからこそ「今まで苦労して手にしたもの・身に付けたものを簡単に捨てたくはない」という思いは、誰の胸にもあることと思います。
能楽公演は、ありがたいことに半数の定員にての開催が認められております。能を演じられる喜びをかみしめつつ、今回の公演に誠心誠意取り組みたいと思います。
鵜飼とは、鵜という鳥を使って魚を捕る日本の伝統的な漁法で、現在は岐阜県の長良川などで行われているものが有名です。前半のシテは、その鵜飼を行う老人ですが、この老人は毎夜のように禁漁地で鵜飼を行ったため、殺されてしまいます。
一般的に能に出てくる老人は、「実は神様でした」とか「実は源義経でした」などと、有名な人物や神様や草花の精などの化身として登場します。必然的に能の老人はどこか超次元性をもって演じられます。
能という芸能は、どんなに卑賎な者にも美しさを求めます。卑しい漁師であってもその中に日本人の持つ美意識を体現しなければなりません。
美しい女性や貴公子を美しく演じるのはやり易いですが、卑賎物の中に美を醸し出すのは、難しい演技となります。
この老人は、「阿漕」「善知鳥」と違って後半に罪を許されます。その罪を許すのが、後半のシテである閻魔大王です。
閻魔大王は言うまでもなく、地獄の番人として死者を極楽へ送るか地獄へ落とすか決める者です。一般的には大柄で力強い存在として知られます。
後半、閻魔大王が法華経の利益を説教し豪快に舞を舞います。私は割に体格が大きいので、身体を活かして大振りに力強く演じたいと思います。
ワキは、安房の清澄から出て身延山がある甲斐の国に赴くところから、日蓮上人であるといわれます。結果的に日蓮上人の弔いでもって罪人が救われるところから、このワキは大変重要な役どころです。
今年は折しも、日蓮上人生誕800年ということで日蓮宗では様々なイベントが行われます。日蓮上人にも思いをはせながら、この能に取り組みたいと思います。