2021年05月

2021年05月17日

「山姥」御礼②

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さて、舞台当日を迎え冒頭に、ご挨拶のために舞台に立ちお客様の顔を見て、胸がいっぱいになりました。

「やっとこの日を迎えられた。。。 長かった。。 今日は思う存分やるぞ」
どんどん気持ちが昂っていきました。


「山姥」という能は、しんどい能として知られます。演じた先輩達が口々に「山姥はシンドイぞ、ツライぞ」と脅かしてくれます。
今回それを痛感しました。

終わった後の脱力感が、今までの能の比ではありませんでした。

その要因に、まず全体の時間が長いことがあげられます。今回も1時間45分もの長丁場でした。
しかも、シテはずっと謡っぱなしです。それも低く力の入った発声で謡い続けます。

「山姥」のこの世ならざる壮大な存在感を出すために、前場も後場もグッと力を込めて動きました。
いや、動かない箇所も、身体の内側から力をみなぎらせていました。

動くときはもちろん、動かないときも全身全霊の力をほとばしらせます。
疲れて当然です。

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前場のシテは里の女ですが、どことなく妖気を漂わせて存在しないといけません。

前場はほとんど動かずに、座ったまま延々と謡っています。
これはしんどかったです。

2年越しで稽古を重ねたのに、フっと謡を間違えてしまいました。
「あれ? 今ちょっと違ったかなあ、、、 なんて思っていると次のコトバも間違えてしまいました」

これは、一番やってはいけないことです。
間違えても、次に引きずらないことは、舞台ではとても大事なことなのです。
初歩的なミスをしてしまいました。

装束は遠目では地味目なのですが、細かな花模様のものを選びました。
能面は、特別に九皐会のお宝の能面の一つである「深井」を拝借しました。作者は「河内」という能面打ちです。河内は「天下一」の称号を豊臣秀吉からいただいた名人で、1600年前後に活躍した能面打ちです。

ちなみに、後の能面「山姥」も、作者は「出目夕閑」という名人で、やはり1600年前半に活躍した能面打ちです。

今回、前シテも後シテも400年近い年月を経た名品を使用させていただいたことは、この上ない栄誉です。


後シテは、山に棲む鬼女ながら自然界そのものともいえる大きなスケールを持つ存在です。
この存在感をいかに出すか、苦労しました。

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後場の最初に橋掛りの一の松で謡う謡は、大変な難物です。
難解な仏教用語を、複雑な節に合わせてどっしりと謡います。しかもかなりの分量です。

ここは、早くも力を振り絞って全開で謡い切りました。マラソンの最初にいきなりラストスパートをかけた気分です。

とにかく、一つ一つの動作を大ぶりにどっしりと行うことに専心しました。
小手先の芸では山姥の存在感は表現できません。身体の芯から気持ちを発散して演じました。

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クセの舞もとにかくしんどかったです。

上の写真の型は、山の上から谷の底へ力を漲らせる箇所です。
下へ身体をとって、大きく左拍子を踏む、カッコ良い型です。私はここぞとばかりに力いっぱい左拍子を踏んだら、しばらく左足がジンジンと痛みました。
力も加減しないと、身体が壊れてしまいます。

クセの後も、立廻、キリと舞が続きます。
ちょこまかと小さな動きをするのではなく、どっしり型を行うことをこころがけます。ずっと、力を蓄えるかのように舞います。
そして、キリの最後に謡が早くなります。シテもそれに合わせて早く動きます。ここが軽い感じにならないように、今まで力を蓄えていたといっても過言ではありません。
力を一気に放出したかの如く、勢いよく舞いました。

そして、最後は抜け殻でした。


後シテの装束は、山に棲む老体の鬼女なので、あえて古びた装束を選びました。
山姥にはピッタリの装束の組み合わせがコーディネート出来ました。

ただ、古い装束は昔の人の大きさで作ってあるので、全体的に小さいのです。特に袖の裄がとても短かった。
私は、装束に合わせて手足を小さく構えました。それがかえって力を凝縮した構えになったように思います。


この「山姥」の舞台に、私は2年越しの思いをぶつけました。
充実した能でした。



kuwata_takashi at 22:00|PermalinkComments(0)

2021年05月16日

「山姥」御礼①

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自身の技芸研鑚のために始めた自主公演「桑田貴志能まつり 山姥」公演、無事に終わりました。
何はともあれ終了して、今はただ安堵の気持ちでいっぱいです。

本来この公演は、昨年の5月30日に開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大により今年に一年間延期といたしました。直前まで何とかして開催したいと願い、準備を進めてきましたが苦渋の選択でした。

今年も同じ番組・同じ配役にて開催を決め、順調に演能準備を進めてきましたが、直前までどうなるか分からない情勢でした。

東京都は、4月25日から3度目の緊急事態宣言を発令しました。劇場でのイベントは、無観客での開催を要請されました。
緊急事態宣言の期限は5月11日です。菅首相は、「今回は短期集中で厳しい措置で臨む。期間の延長はない」と明言していますが、これまで緊急事態宣言が当初の期限通り終わったためしはありません。今回も延長が充分に考えられました。

チケットは思うように売れていませんでしたので、開催すれば大赤字になることは分かっています。
でも、もともとそんなことは織り込み済みでした。

「能まつり」は、自己の技芸研鑽のために始めた公演です。コロナ禍であっても、技芸研鑚は弛まず続けなければなりません。

今年こそは是が非でも開催したい、直前まで準備を進めました。

ゴールデンウイークは何処にも出かけずに、自宅で「山姥」の稽古に励みました。
「山姥」は、体力的にしんどい能です。自宅舞台に籠って、しんどい稽古を重ねました。
でも心の中では、
「ひょっとしたら緊急事態宣言が延長されて開催できないかもしれない・・・」
ついそう思ってしまいます。

そんな時、去年の4月5月を思い出しました。
やはり自宅舞台に籠って、開催できるかどうか分からない「山姥」の稽古を重ねていた日々を。

去年は、未知のウィルスにおびえ、明日が見えない中でも時間だけはたっぷりあるので、とにかく稽古に励みました。
公演の一年延期が決まった時も、
「きっと来年には、コロナの心配など吹き飛んで、晴れやかに公演が出来る」
と、信じて疑いませんでした。

しかし、一年後も同じように「山姥」を能舞台で演じられるのかどうか、不安に感じながら、とにかく稽古している自分がいます。

「ああ、あれから一年かあ。。。 何だか停滞しているなあ。。。 早く次に進みたい。。。」

ゴールデンウイークでの稽古の日々は、ひたすらツラかったです。


ゴールデンウイークが明ける頃、案の定緊急事態宣言の延長が発表されました。
しかし、劇場への無観客要請は緩和され、50%はお客様を入れても良いことになりました。

私は飛び上がって喜びました。
幸か不幸か、チケットはちょうど半分くらいしか売れておりません。
晴れて、「桑田貴志能まつり」を開催できることになりました。

そんな紆余曲折を書いていたら長くなりました。
続きは次回にします。



kuwata_takashi at 22:30|PermalinkComments(0)

2021年05月08日

5月15日「桑田貴志 能まつり」について

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5月15日(土)に開催予定の「桑田貴志 能まつり」ですが、予定通り開催いたします。


昨日の政府・並びに東京都の発表により、東京都における緊急事態宣言は延長されましたが、イベント・劇場においての規制は緩和され、定員の 50%以内での演劇公演の開催が認められました。

当公演は、(公社)能楽協会の「能楽堂における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」、ならびに(公社)全国公立文化施設協会の「劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」に沿って公演を開催いたします。


ご来場をお待ちしております。


kuwata_takashi at 23:57|PermalinkComments(1)

2021年05月02日

深川能舞台チャンネル

この度、YouTubeチャンネルを開設いたしました。
四苦八苦しながらの動画編集でした。

今後、能についての様々な発信をおこなっていきたいと思います。

最初の配信は、来る5月15日(土)に迫ってまいりました自主公演「桑田貴志能まつり」で演じます「山姥」の見どころを実演を交えながら分かりやすく紹介しています。

実際に舞台で使用する能面や扇などの小道具もご覧いただけます。

カメラに向かって一人でしゃべるのは、とても緊張しました。
すごい硬い表情で語っています。
緊張のため、所々で嚙みまくっていますが、ご愛敬だと思ってお許しください。

「山姥」のチラシには、4月下旬頃配信開始

と載っていますが、5月になってしまいました。申し訳ございません。


お暇な折に、ご視聴いただければ幸いです。





kuwata_takashi at 12:50|PermalinkComments(0)