2019年06月

2019年06月15日

「三井寺」御礼

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満員のお客様をお迎えし、第10回「桑田貴志 能まつり」を無事開催いたしました

朝から激しい雨が降り続ける中、ご来場くださいました方々に、深く御礼申し上げます。

会場の観世能楽堂は、銀座駅から地下通路を通って入れます。
全く雨にぬれずに能楽堂に来れるので、こういう天気の時は助かります。

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自身の芸の研鑽のために始めた自主公演も、今回で10回目を迎えました。
この間に、様々なことがありましたが何とか続けてこれました。
これからも、ひたむきに頑張っていきたいと思います。


今回は10回目を記念して、林望先生に冒頭の解説で花を添えて頂きました。

番組は、仕舞「道明寺」観世喜正師・「誓願寺」観世喜之師・狂言「伊文字」野村萬斎師、という、豪華な演者に出演を頂き、私は狂女物の大曲「三井寺」を演じました。

この「三井寺」は、難しい能でした。

まず、謡がとても難しい。
能の謡の難しさは、二通りあります。
「節付けが難しい」「謡の雰囲気(位取り)が難しい」

例えば私が4月に演じた「安宅」は、節付けは簡単なのですが武蔵坊弁慶という稀代の豪傑の雰囲気を謡うのがたいそう難しい能です。

「三井寺」は、両方難しい能です。
まず、節付けはたいそう難関です。強吟、弱吟、和吟という能の音階が一行ごとに変わっていきます。だいたい総じて複雑な節付けで構成されています。

また、一般に狂女物は芸尽くし物として、舞いに主眼があるのですが、この能は謡で様々な情景を表現します。

十五夜の月景色、三井寺の美しい鐘の音、親子の情愛、
これらを場面ごとに、じっくりと謡い上げます。

なかなか上手く謡えなくて、何度も稽古しました。


能の構成も変わっています。
前半は清水寺で、生き別れた子供に巡り合うことを祈るシーンです。

冒頭、幕が上がると登場音楽なしで、シテが舞台の真ん中に座着きます。
無音の中、ゆっくりと橋掛りを歩いて舞台へ向かうのは、難しいものです。
「清経」や「土蜘蛛」など、ツレならばこういう登場の仕方もありますが、シテでこのように登場する能は珍しいです。

お客様の視線を一身にうけ、橋掛りを歩むのは緊張します。何だかすごく落ち着かない気分で舞台に入りました。
これが、なにがしかの囃子事(次第・一セイ・アシライなど)があるとすんなり歩めます。
音がないと、その分自分の身体に音楽性を帯びて、歩まなければならないのだと思います。

前半は、しんみりと祈りを捧げるシーンです。
どうしてもこういう静かな場面では、謡が間延びしてしまうので、ダレないよう運んで謡うように心がけました。

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後半のシテは狂女です。高い調子の声で強く謡いました。

鮮やかな水色の装束を身にまとい、狂気がかっての登場です。
この登場シーンは、「一セイ」という華やかな登場音楽が流れるので、楽に出てこられます。囃子方が作るムードに合わせて歩んでいけば良いので気が楽です。

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最初に、狂女物っぽく華やかな謡と舞を見せた後、この能は落ち着いた展開となります。

月景色や鐘の音色をじっくりと聞かせる展開になります。
単調にならないように気を付けました。

その後、眼目の「鐘之段」となります。

能面をつけて限られた視野のなか、作り物に結ばれている紐をほどいてちょうど良い長さに持って、ねじれないように持って鐘を突く所作を見せるのは、案外難しいものでした。

また、鐘を突いた後、紐をくぐって上手く足元に落としますが、これも絡まることが多々あります。

こういったところでミスすると、目立ってしまい、残念な失態となります。

能の作り物は、一回一回作ります。実際に作り物が出来るのは当日の開演前です。
会場前に、舞台に作り物を置いて、後見の方に実際に紐を結んでいただいて、何度も練習しました。
やっているうちに、何となくコツもつかめてきました。

当日は首尾よく出来ました。一安心でした。

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たいへんな能でしたが、なかなか良い成果が上げられたように思います。

この能は子方が過酷なことでも知られます。
一時間以上、舞台で立て膝で座っていなければなりません。

次男は、今まで「善知鳥」「桜川」など、今回のように長く座った経験はあります。
ただ、最近は身長も伸び、体重も増えてきました。
今までになくつらかった様です。

立つ時、ワキの森常好師にずいぶん助けてもらいました。
こんな重い子供を、持ち上げてくださり有難うございました。

過酷な役を、次男は頑張って演じました。
次男ももう12歳です。身体も大きくなり声変わりも始まりました。

子方ももうすぐ卒業です。
残少ない共演の機会を楽しもうと思います。


10年一切りと言います。
第10回の自主公演を終えた今を、新たなスタートラインと定め、次の10年、その次の10年と頑張っていきたいと思います。




kuwata_takashi at 22:46|PermalinkComments(0)