2019年04月
2019年04月28日
「安宅」御礼
平成最後の日曜日、観世九皐会別会にて「安宅」を演じました。
満員のお客様にお運びいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
「安宅」は、能楽師の修業過程において重要な能です。
若いうちから、翁の「千歳」「乱」「石橋」「道成寺」と徐々に階段を上がっていって、いよいよ「安宅」を演じることになりました。
この能は、能の中でも一にを争うほど多くの人物が舞台に上がります。
特に山伏は9人登場します。
この9人の山伏を、シテの弁慶は統率して、息の合った演技を見せます。
今回、9人のほとんどは兄弟子に勤めていただきました。
すごい迫力で、後ろから支えてくださいました。
兄弟子たちのパワーに乗せられて、何とか「安宅」を演じることが出来た気がします。
東京の能楽堂の中で、一番広い国立能楽堂。
ここは我々能楽師にとって、憧れの檜舞台です。
ここでシテを演じるのは、平成21年「道成寺」、平成22年「養老 水波之伝」以来、3度目です。
身が引き締まります。
「安宅」が上演されるときは、いつも楽屋はたいへんな慌ただしさです。
シテ、子方、山伏9人と11人の装束の準備をしなければなりません。
今回も、ドタバタでした。
私の装束が着き終わったのは、開演の直前でした。
緊張する間もなく、舞台に飛び出た感じでした。
まずは、舞台に狂言方も含めて12人が2列にずらっと並んで長大な「道行」を謡います。
だいたいここは、山伏に任せてシテはセーブして謡うものです。
ここで張り切り過ぎると、後が持ちません。
・・・それは分かっているのですが、いざ舞台に上がって謡い始めると、セーブなんか出来ません。
存分に謡いました。
途中、前方を向いて所作をしますが、山伏の大音量の謡に乗って動くのは、なかなか気分の良いものでした。
「道行」が終わると、これでもかという位に謡が続きます。
「安宅」の謡は、ほとんどがコトバです。コトバとは、普通の演劇ではセリフに該当する謡いです。
この膨大な量のコトバを、緩急と強弱を織り交ぜて謡います。
このコトバを、いかに活き活きと謡うかがこの能の難しさでしょう。
能のコトバは、決められた抑揚で謡うので、ただ謡うだけでしたらとても簡単です。
しかし、シンプルであるがゆえに、そのコトバに意味を内包させて、物語の情景を表現することは至難の技です。
突き詰めれば、コトバが謡の中で一番難しいでしょう。
「安宅」で描かれる弁慶は、豪快ほうらくでなおかつ思慮分別に優れた大人物です。
その弁慶を、説得力をもって演じるためには、腹の座った謡が求められます。
単純な声量も必要ですが、その声の芯に力を籠めることが肝要です。
もう、あらん限りの力を振り絞って謡いました。
山伏一同で最後の勤行を行う山伏問答の場面も、上手く出来ました。
シテと山伏9人が、V字に居並んで関守の富樫を威嚇します。
ここは、山伏との呼吸が難しいところですが、さすが手慣れの兄弟子たちです。
力強い謡で、後方より支えてくださいました。
この後が、いよいよこの能のキモの「勧進帳」です。
この「勧進帳」は、圧倒的に分量の多い謡で、なおかつ節付けやお囃子との兼ね合いもたいそう複雑です。
「正尊」の「起請文」、「木曽」の「願書」と並んで「三読物」と呼ばれ、能の中でも難しい謡として知られます。
今まで、幾多の先輩方の「勧進帳」をみてきました。その中で、自分なりの理想の謡が固まっていました。
「いかに、その理想の『勧進帳』を謡えるか」
それをテーマに、ここ数ヶ月稽古に取り組んできました。
そんな中、自分なりの「勧進帳」をある程度つかんで当日を迎えました。
いざ本番、自分なりの「勧進帳」はどっか行ってしまいました。
あの場に立つと、そんな余裕はありません。
身体も既に疲れ果てています。
そんないっぱいいっぱいの中、力の限り謡っただけでした。
「勧進帳」の後半は、ペースも上がり息が上がってきます。
こんな中、出ない声を振り絞って懸命に謡い上げました。
後で、兄弟子から「最後まで声が出てたよ。よくあんな声で最後まで続いたなあ」と言われましたので、最後まで声は出ていたようです。
とにかく、全速力で駆け抜けた気分です。
この後も見せ場は続きます。子方を打ち付けた後は、おしくらまんじゅうの如く、一丸となってワキに詰め寄るシーンもあります。
ここは、兄弟子に力を任せて乗り切りました。
おしくらまんじゅうでは、兄弟子の押す力を必死にこらえていました。最後は完全に身体が浮いてしまうほどの迫力です。
ずっと続く、見せ場の数々。
最後に、「滝流」という複雑な舞を舞います。
ここが最後の見せ場です。
なかなか複雑な舞です。本来なら緊張の一瞬なのでしょう。
でも、舞を舞う前、橋掛かりにて舞台を見込み「げにげにこれも心得たり」と謡い出した時、不思議とホッとしました。
「ああ、舞を舞えばもう終わりだ。舞を舞うのはいつもやっているから慣れたものだ」
こんな心境でした。
終わった後、さすがに疲れました。疲労困憊という言葉が相応しい状態でした。
何とか演じ終えた「安宅」
それも、共演者の力に支えられたおかげです。
力強く後方から支援してくださいました、兄弟子たち山伏。迫力ある存在感で、関守・富樫を演じてくださいましたワキの森常好師。洒脱な演技で盛り立ててくださいました、狂言方の野村萬斎師と内藤連師。
また、不慣れな私が謡いやすいようにはやし立てて下さった、竹市学師、大倉源次郎師、安福光雄師。力強い地謡で支えてくださいました、永島忠侈師をはじめとする地謡の方々。
最高のメンバーに盛り立てられ、満足のいく舞台を勤められました。
共演者には感謝しきれません。
子方の源義経を演じた次男・大志郎も頑張りました。
堂々としたものでした。
落ち着きがなく、いつもチョロチョロしていた次男の成長も感じられます。
まさかあの次男が、安心して見てられるようになるなんて・・・
心地よい疲労で、平成最後の能を演じ終わりました。
令和の新時代も、良い能を演じていきたいです。
kuwata_takashi at 23:00|Permalink│Comments(0)│
2019年04月27日
平成最後の「安宅」
明日、いよいよ「安宅」です。
ここ何ヶ月か、この大曲に向き合ってきました。
今日、最後の稽古を終え、気持ちは落ち着いています。
「やることはやった」
そんな心持ちです。
この何ヶ月か、子方を演じる次男と何度も稽古をしました。
次男は頑張っています。
これは、子方が舞台で背負う笈という道具です。
次男は、長男が小学校を卒業してもう使わなくなったランドセルを背負って稽古しました。
さあ、いよいよです。
これは、去年安宅の関に行ったとき、安宅住吉神社で求めたお札です。
ずっと神棚に飾ってありました。
明日は、見事に難関突破できるよう、精一杯頑張ります。
kuwata_takashi at 18:57|Permalink│Comments(0)│