2017年05月
2017年05月31日
西表島公演1
今年度も、文化庁学生巡回公演の事業に参加しています。
今回、今年の第一回公演がありました。
公演先は、西表(いりおもて)島です。
イリオモテヤマネコがいる島と言えば、「ああ、あそこか」と分かります。
台湾のすぐ近くで、日本のほぼ最西端です。(最西端は隣の与那国島)
今回訪れたのは、西表島の上原小学校です。応募してきた先生方に感謝いたします。
そんな機会でもない限り、能の公演はなかなか出来ないことでしょう。
西表島には空港はありません。隣の石垣島から連絡船に乗っていきます。
石垣島には東京から直行便が出ています。距離は約2000キロ。3時間かかります。
日本の国内線では最長距離だそうです。
昼頃の飛行機に乗っても、石垣島のホテルに着いたのは夕方です。
今日は、西表島には行けません。
とんでもない長旅です。
こんな表示を見つけました。
石垣島は、台湾の近くと書きましたが、それどころか東京よりフィリピンのほうが近いようです。
ホテルの近くに、夕日がきれいに見えるビーチがあるそうです。
せっかくなので行ってみました。
少し曇っていましたが、なかなかきれいな夕日です。
缶ビールを飲みながらぼーっと眺めます。南国でのつかの間のひと時。
南国は時間がゆっくり流れているかの如く、のんびりしています。
ゆったりと時間を過ごしていると、大事なことに気が付きました。
カープの試合が始まった。
私はそそくさとスマホを取り出します。
スマホを使うと、全国のラジオを聴くことが出来ます。本当に便利な世の中になったものです。
日本の端っこで、ラジオを広島の放送局に合わせます。
美しい夕日を眺めながら、ビールを飲み、そして大好きな野球中継に耳を傾ける。。。。
至高の時間が流れます。
え、こんな時に野球? せっかくの優雅なひと時なのに。
はい、私にとってはこれが至高の時間です。
ラジオからは、広島カープと西武ライオンズの試合が流れています。場所は西武ドームです。
ふと、気付きました。
「そういえば昨日、西武ドーム行ってたんだっけ」
昨日は、ぽっかり時間が空いたので、地元のカープファン仲間と野球観戦に行ったのでした。
埼玉県所沢市にある西武ドームで、声をからして熱狂的に応援した次の日、石垣島で夕日に物を思いながら、しんみりとラジオ中継を聴く。
カープとライオンズの選手たちは、同じメンバーで同じ西武ドームで戦っています。
応援する私の環境は、全く違います。
昨日と今日。ステキな日になりました。
2017年05月21日
シンガポールから来たれり
シンガポールの演劇学校「Intercultural Theatre Institute」で4年前に能を教えた学生から、日本に来るという連絡がありました。嬉しいお知らせです。
彼はシンガポールで演劇活動をして、その仕事で来日してきたようです。
11月はシンガポールで、12月は日本で日本の劇団と一緒に公演を行うそうで、今回は舞台稽古のために来たそうです。
これまでも、何人かの卒業生が公演などで日本に来ています。
その都度、何とか時間を作って会っています。中には、どうしても時間が取れなくて会えなかったこともありました。本当に残念に思います。
シンガポールで能を教えた学生たちと、何年か後に日本で再会。
こんな嬉しいことはありません。
シンガポールで学生たちには、変わったとこに連れて行ってもらったり珍しい食べ物や飲み物を紹介されたりしています。今回はこっちの番とばかり、得意気に日本の紹介をし、楽しいひと時を過ごします。
今回の彼は、何と深川に泊まっているそうです。
思いっきり近所なので私の家に来てもらいました。
ウチにある稽古舞台を見せます。
見ているだけでは面白くないので、足袋をはかせて、即席で稽古を始めました。
「何か、能の舞で覚えているのない?」
こう聞くと、彼は
「Gekkiuden no hakue no tamoto」と謡います。
「あ、それは鶴亀だね。よし、鶴亀の稽古をしよう」
彼は全然覚えていないと言っていましたが、やらせてみると動きがスムーズです。
やはり、現役の役者なので身体の使い方が上手です。
3回ほど通してやったら、もう出来るようになりました。
何となく身体が覚えているようです。
4年前に3か月稽古しただけなのに・・・
感心しました。
夜は、深川めしの名店に連れていきました。この店は、深川めしの元祖と言われる店です。
せっかくなので、東京のローカルフードを食べてもらいました。
マレー系シンガポール人である彼は、豚肉が食べられず、またアルコールも飲みません。
まあ、深川めしなら大丈夫。刺身や天婦羅も問題ありません。
日本料理を堪能してもらいました。
また、ノンアルコール・ビールに挑戦してもらいました。
アルコール類を一切口にしない彼は、恐らくビールを飲んだことはないはずです。
これは、ビール味のジュースだから大丈夫だよ。アルコールは入っていないから。
彼は、喜んで飲んでいました。
気に入ったようで、おかわりもしていました。
楽しいひと時でした。
彼は、12月に本公演でまた日本へ来ます。また会うのが楽しみです。
シンガポールで能を教えた学生達は、世界中で活躍しています。
こうやって、日本で会う機会も度々あります。
今度は誰が来るのだろう。楽しみにしています。
2017年05月13日
「花筐」御礼
会場となった宝生能楽堂はほぼ満席でした。ご来場の皆様方、有難うございます。
今回演じましたのは、「花筐」という狂女物の大曲です。
一般的に狂女物は、物狂い芸を見せる役どころなので、謡は高音で強く謡います。
ただ、この能のシテは帝の寵愛を受けた身分の高い女性です。
強く謡う中にも気品が求められます。
稽古を重ねるにつれ、難しい能だなあと実感しました。
前シテは、まだ物狂いとなっていないので、優美に演じてみました。
ほとんど三番目物のイメージで演じました。
丁寧に品よくを心掛け、首尾よく出来たかなあと思います。
後シテは、思い切って強さを押し出してみました。
稽古している段階で、当初は「花筐」という習い物の大曲を意識しすぎて、どうしても大事に謡っていました。
謡の運びが悪いのは私の欠点です。
もう、当初は思いっきり欠点通りのベタベタの謡でした。
謡を流れよく謡うというのは、どんな能でも大切なことです。
ましてや狂女物なのですから、テンポよく謡わなければ面白くありません。
特に「クルイ」の舞は、本当に狂おしく舞ったつもりです。
その後「クセ」の段落になると、様相が変わってきました。
地謡と囃子方が、すごい気合となってきました。
何だか、舞いながら地謡やお囃子に聞きほれてしまいました。
「良いクセだなあ・・・」
自分でこんなこと思いながら舞っていれば世話ありません。
何だか、地謡と囃子方の皆様に舞わさせて頂いた格好となりました。
感謝です。
今回、大きな失敗がありました。
頭に結う鬘の中紐をキツク結び過ぎました。
鬘は、結う前に頭に直に紐を結んで固定します。
私は普段はゆるゆるに結ぶのですが、今回は長丁場なのでいつもよりキツク結びました。
キツイほうが気合も入ります。「よっし、頑張るぞー」
意気込んで舞台へ出ていきました。
しかし、頭に直に結ぶ紐が、汗で膨らんできてドンドン締め付けてきました。
もう、クルイの途中位からは我慢できないくらい痛くなってきました。
クセのころは、フラフラになりそうな身体を何とか保ちながら、気力で舞っていました。
少しでも気を抜いたらふらつきそうだったので、意識を集中して演じました。
結果的に少しも気のゆるみのない舞だったかもしれません。
舞台が終わって鬘をといた後、グタっと倒れてしまいました。
緊張の糸が切れ、意識が遠のきました。
今回は何とか終演まで正気でいられました。もう少し長かったらどうなっていたわかりません。
今後、鬘の紐には細心の注意を払わなければならないと実感しました。
次男・大志郎がが、継体天皇として舞台に出ました。
親子共演は、何度やっても気がすり減ります。
今回は、ただ座っているだけの役でした。
舞台に出てきて、50分くらい床几に座っているだけです。
一見簡単そうに見える役です。
しかし、子供にとって何もせずにただ座っているというのは、何よりも難しいようです。
事前に何度か、私が一通り舞いながら、座らせる稽古をしました。
どうしても動いてしまう次男に、
「本番で、キョロキョロしたりゴソゴソしたら、ご褒美はなし」
こう言ってあったのが効いたのか、ほとんど動かずじっとしていられたようです。
なにはともあれ、主催公演が終わってホッとしました。
企画から準備まで全てこなさなければならないのが主催公演です。
まあ、自分の座長公演が開催できるなんて有り難いことです。
これからも頑張って「桑田貴志 能まつり」を続けていきたいと思います。
2017年05月11日
上村松園「花かたみ」
今回のチラシは、上村松園さんの有名な絵画「花がたみ」を使いました。
上村松園さんは、女性として初めて文化勲章を受けた日本を代表する画家で、この「花かたみ」の他にも「草子洗小町」「砧」「序の舞」など、能を題材にとった絵を多く書いていらっしゃいます。
いつもは舞台写真を使っているので、かなり印象の違うチラシが出来ました。
お客様からは、上々の評判。
綺麗なチラシになったと思います。
この絵を始めてみた時、私はこの女性の顔にくぎ付けになりました。
どう見ても能面にしか見えません。
しかし、生身の人間の顔として全く違和感がありません。
これは一体どういうことなんだろう・・・
上村松園さんは「花がたみ」の絵を描くにあたって、狂女の顔を研究したそうです。
様々な顔を見た上で、狂女の顔を一番的確に表現するのは能面であると確信し、「花がたみ」の女性の顔は能の女面にを描いたと著書の「青眉抄」で述べています。
本人にとっても、この狂女の顔は渾身の出来栄えだったようです。
この素敵な絵を、今回の能まつりのチラシにぜひ使いたいと思いました。
この絵を所有しているのは、奈良の松伯美術館です。上村松園・松篁・淳之と三大にわたる絵を展示している美術館です。
松伯美術館に、能のチラシに使いたい旨をお願いしましたら、快く使用を許可して下さいました。
大変にありがたいことです。
おかげで良いチラシが出来ました。
この場を借りて御礼申し上げます。
この絵画「花がたみ」が持つ美しい世界観に負けないような能「花筐(はながたみ)」を、明後日は演じたいと思います。
2017年05月08日
能まつり「花筐」
自身の芸の研鑚のため立ち上げた「桑田貴志 能まつり」。
今週土曜日5月13日に、第8回公演・「花筐」を演じます。
この能を一言でいうなら、大和王朝時代の古代ラブストーリーです。
万世一系でつながる日本の皇室は、現存する王室の中では最長で最古と言われます。その天皇家が一度途絶えそうになったことがありました。
7世紀の初頭、第25代武烈天皇には跡継ぎがいませんでした。5代前の応神天皇の血筋の者・男大迹皇子が越前国にいることがわかり、奈良の都に招いて第26代継体天皇として即位させたそうです。
能「花筺」では、この男大迹皇子には越前国に恋人・照日の前がいたという設定になっています。
照日の前からみれば、自分の恋人がいきなり天皇となり自分の元を離れていった訳です。圧倒的な身分の差に絶望しつつも、皇子を追いかけて照日の前は奈良の都へ赴きます。
結局このラブストーリーは、ハッピーエンドで終わります。
女物狂いとなって皇子を探す照日の前は、紅葉狩に出かける継体天皇となった皇子に出会います。最初は、帝からもらった形見の花籠を見せても全く信じてくれません。
照日の前は、「狂い」「クセ」と言われる、詞章・所作ともに美しい舞を見せます。
その様子を見た継体天皇は、自分の恋人であることに気づき、再会を喜び一緒に奈良の都へ帰ります。
能としては、その舞尽くしが見どころとなります。テンポよく舞われる「狂い」。中国の故事を引いてじっくり舞う「クセ」。どちらも難しいものです。
特に「クセ」は「三大難クセ」と呼ばれるほど、謡いどころ舞いどころ満載です。心して取り組もうと思います。
ラブストーリーの相手役・継体天皇は、次男・大志郎が演じます。
実際は大人の天皇を子供が演じる理由は二つあります。まず、実在の天皇を俗人が演じることに対するはばかりです。子供は神聖なる存在なので、天皇を演じても許されるという訳です。
また、照日の前の恋心の哀切な部分を強調する意味もあります。相手役を子供にすることによって、ラブシーンの生々しさは無くなり、お客様は照日の前の気持ちに集中できます。「船弁慶」などにもある能らしい演出です。
女物狂い物のなかで屈指の大曲に、誠心誠意演じたいと思います。
仕舞は、観世喜正師の「水無月祓」と観世喜之師の「弱法師」です。
どちらも「狂い」を舞の上で表現しています。喜正師・喜之師の至芸をお楽しみください。
狂言は、TVや映画など多方面で活躍されている人気狂言師・野村萬斎師にお願いしました。
「茶壷」という軽快で面白い狂言を演じて頂きます。萬斎師の華麗で洒脱な芸を、お楽しみ下さい。
いよいよ、公演まで一週間きりました。
おかげ様で、チケットは残席少々となっております。
お申込みは、下記公式ホームページからお願い致します。
桑田貴志公式ホームページ http://www.geocities.jp/kuwata_company/