2017年03月

2017年03月09日

2017シンガポール最終便 最終回

評価とミーティングが終わると、いよいよ「TIGER TIME」です。

「TIGER TIME」とは、私が大好きなビール、タイガービールにちなんで私が作った造語です。
まあ、タイガービールを飲む時間、つまり宴会のことです。

何年か前から私が言い出したら、学生たちにウケちゃって、それ以来代々の学生たちは普通に使います。

最近では学校のスタッフたちも、「今日、タイガータイムしませんか?」などと普通に使ってきます。
シンガポールに、「イミダス」のようなものがあったら、もうすぐ掲載されるかもしれません。


いよいよ、学生たちともお別れです。
毎回、この時は本当に切ないです。

前回は、2月中旬に帰国したオーストラリアの演劇学校からの留学生も、今回はこちらもお願いして3月まで在籍してもらいました。
やはり発表会できちんと能を演じないと、せっかく学んだ能の稽古が身につかないと思ったからです。

学生とも、発表会に向けて共に稽古していくうちに、どんどん親しみがわきます。何だか絆のようなものまで生まれます。
発表会を経験するとしないとでは、全く違うのです。

だから、今回はオーストラリアからの留学生たちにも大いな思い入れがあります。

思えば、最初はニュージーランドからの聴講生もいて、22人のクラスでした。
ニュージーランド人が帰ってから、21人となりました。
発表会を目指して、共に稽古してきた2か月ちょっとの期間は、本当にかけがえのないものとなりました。

いよいよお別れです。

今回は、学校の中庭でバーベキュー大会です。
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私達は、帰国のための荷造りがあったので、遅れて参加しました。

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すると、もう大盛り上がりです。

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それぞれに盛り上がっています。

芝生で覆われた中庭で、8か国の学生たちとバーベキュー大会。
このシチュエーションは、ワクワクします。

楽しいひと時でした。


社交辞令もおおいにあると思いますが、学生たちは口々に「能は楽しい」と言ってくれます。

中には、日本に行って能を学びたいと言ってくる人も何人かいました。

日本には、外国人を対象とした能のクラスはあるのか聞いてきます。

私は少々考えました。

「うーん、あるにはあるけど、だいたいは、初心者を対象とした一日体験コースのようなものだよ。君たちはもう初心者じゃないから・・・」

「いや、私はまだまだ初心者です」

そういう学生に私はこう言います。
「いやいや、能面と能装束をつけて能まで演じた君たちは、もう初心者じゃないよ。日本人のお弟子さんでも、そこまでできる人はそんなにいないよ」

これは本当です。
わずか9週間の稽古でしたが、一日4時間の稽古がほぼ毎日です。

トータルではかなり稽古の時間です。

それを発表会という目標をもって集中的に稽古したのですから、ずいぶん上達しました。

でも、そう言ってくれることはとても嬉しいことです。

「君たちが、日本に来るのなら、そんな初心者コースじゃなくて、私がもっと本格的に稽古してあげるよ」
私は、学生たちにこう言いました。本当にそう思います。


さあ、そろそろ飛行機の時間が近づいてきました。

前回の時と同様、学生たちは空港まで見送りに来てくれました。

前回の狂乱の「TIGER TIME」の様子は、下記のページをご覧ください。
http://shitashimu.dreamlog.jp/archives/2015-03-05.html

何だか気恥ずかしいなか、出国まで見送ってくれました。

本当に名残惜しいです。

この様な寄せ書きまでもらいました。

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これは、21人全員から。
みんな、TIGER TIMEのことばかり書いていて笑えます。

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色んな国から集まっている学生らしく、何か国語かで、「有難うございます」が書いてあります。
ほとんど読めません。いちおう何処の言葉か説明してくれましたが、酔っていたので忘れました。

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オーストラリアからの学生たちは、オーストラリアについて書かれた本をくれました。
中には、やはり寄せ書きが。


本当に、かけがえのない日々でした。
このシンガポールでの能楽コースは、私にとってもこの上なく大きな経験です。

ここで学んだことを、学生たちは自分たちの演劇活動に活かして欲しいと願います。

そして、またどこかで会いましょう。


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2017年03月08日

2017シンガポール最終便 6

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発表会の次の日、今日は学生たちへの評価とミ
ーティングの日です。

昨日の余韻が残り、みんな良い顔をしています。

喜正先生がそれぞれの学生たちに個別に評価と採点を告げます。
ここは、学校ですからやはりキチンとしなければなりません。

みんなよく頑張りました。ではダメなのです。

でも、結果的に全員を褒めることになりました。
それだけ素晴らしい成果が得られました。

喜正先生に続いて、私は稽古の時の様子などから総体的な評価をし、アドバイスとして次の2つのことを言いました。


まず、能の稽古はとにかく師匠の真似をすることが一番大事であるということ。

ただひたすら真似をして言われた通りの動きを繰り返す。
基本的に自分の考えや、観客とのコミュニケーションというものは存在せず、ひたすら師匠から教わったことを演じるのです。

自分が自分が、という感情を捨てて、決められた動きを決められたようにやっていくこと、それがキチンと出来ないと、何も生まれてこないのが能である。

最近の若い人は、自己顕示欲が強いと、あるスタッフが言っていました。
自分を前面に出しすぎるというのです。

一般の演劇にとって、必ずしもそれはマイナスではありません。
そもそも役者なんてものは自己顕示欲のかたまりのような人たちです。

でも、それも過ぎると目障りになります。

自己顕示を一切求めない能という演劇を学ぶことは、大変意義があることだといいました。


そしてもう一つ、舞台上の演技も大事だけど、それと同じくらい出入りの作法や振る舞いも大事であるということです。

仕舞の稽古の時は、仕舞そのものより、出入りや地謡の作法や座る位置をきちんとすることにより多くの時間を費やしました。

例えば地謡は、舞台の後方の真ん中に、キチンと4人同じ間隔で一列に並びます。
これがまあ、出来ないのです。

何度も何度も、やらせました。
学生たちは、どうしてこんなことをしているのか分からなかったかもしれません。

でも、能役者にとってこれは能の演技以上に大事な事なのです。

例えば、切戸口の方に寄って波打って並んでいる囃子方、前後左右が不揃いで、さらに舞台の中まではみ出している地謡。

そんなの、能舞台で見たことないと思います。

能は、どの瞬間を切り取っても絵になっていなければならないと教わっています。
どこのどの場面も美しくなければ能は成立しないのです。

だから、能役者にとって、決められた場所に何気なく行って何気なく存在することは、とても大事な事なのです。

それは多分、普通の演劇だって同じことでしょう。
ステージの上で自分の立ち位置をわきまえている。そしてそこに普通に存在して、普通に振る舞う。

これが出来ないと役者として失格でしょう。


彼らは、別に能楽師になる訳ではありません。
だから、こんなアドバイスを送りました。

これからの演劇活動に、この能楽コースで学んだことを活かして欲しいと、切に望みます。


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2017年03月07日

2017シンガポール最終便 5

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いよいよ、発表会の日となりました。

まず、午後1時から通しで最終稽古です。
まあ多少の問題はありましたが、キチンと出来ています。

最終稽古は4時前には終わり、開演の7時半までは自由時間です。

私は、お昼を食べそびれてしまい、さすがにお腹がすきました。
遅い昼食をとろうと、着替えて外へでようとすると、そこら中で稽古している学生たちの姿が見えます。

その姿を見て、ジーンとしました。

能の発表会に向けて、ここまで真剣に稽古に取り組んでいる学生たちの姿を見て嬉しく思います。


シンガポールの演劇学校「Intercultural Theatre Institute(ITI)」に集まってきた第9期生と第10期生。
シンガーポール・マレーシア・フィリピン・中国・インド・シリア・フランスから来た16人の学生。

また、オーストラリアの演劇学校「Western Australia Academy of Performing Arts(WAAPA)」から短期留学している5人の学生。

総勢8か国から21人の学生たちと過ごしてきた、1月から3月の2か月チョットの能楽コースの、集大成がいよいよ始まりました。

まず、3人ずつ7組に分かれて仕舞の発表です。
この2か月の間に習った「鶴亀」「紅葉狩」「羽衣」「邯鄲」「屋島」の5曲の発表です。

落ち着いてやっています。

出番が終わった学生たちから、順々に装束をつけて能「邯鄲」の準備です。

さすがにフルで装束をつけるのは大変なので、浴衣と袴の上に、簡単な装束を着つけます。

喜正先生は見所と舞台で監督と後見をしていますので、述べ22人の登場人物の装束を、2人の能楽師で着けることになります。

楽屋は戦場のようなあわただしさです。


まず、能「邯鄲」が始まりました。
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この輿(こし)も学生たちの手作りです。
彼らは基本的に演劇人なので、大道具小道具などは自分たちで制作します。

シテが持っている唐団扇は、シンガポールのチャイナタウンで学生が見つけてきました。

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子方(舞童)は、舞人としてツレ2人の相舞としました。
ツレと、ワキツレ3人が居並ぶ中、舞いを舞う皇帝。

シテは、現実世界のシテ「盧生」と夢の中のシテ「皇帝」に分けました。
なるべく多くの人に活躍してもらおうという演出です。

「邯鄲」はなかなかうまくいきました。

続いて能「紅葉狩」です。

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前シテ1人・前ツレ5人、後シテ1人・後ツレ3人と、大人数が活躍する「鬼揃」の演出です。
前シテツレ6人が三角形に並ぶところ、上手くいきました。

能面を着けて、キチンと居並ぶのはとても難しいのです。

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ワキとワキツレ。最初に出てすぐに引っ込むワキツレは、その後は後見として活躍してもらいました。

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前ツレは、2人がクセを相舞、3人が中の舞を相舞です。
能面を着けると、相手が見えないので、なかなか揃いません。
何度も練習していました。

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アイ狂言は、長いアイ語りを覚えるのは大変なので、短くして祝福の舞を舞うという設定にしました。

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後シテと後ツレ。般若のインパクトは凄いもので、会場からため息がもれます。

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最期にみんなでカーテンコール。
出演者の学生たちに呼ばれて、私達まで舞台で拍手を受けました。


こうしてみると、良い発表会だったなあと、しみじみ思います。

学生たちはそれぞれ、精一杯の演技をしました。
また、お互いにサポートし合いながら、良いチームワークだったと思います。

終演後の宴会が盛り上がったことは言うまでもありません。



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2017年03月06日

2017シンガポール最終便 4

今日は、いよいよ現地の劇場にて、リハーサル。

ついにここまできました。

会場は、マレー・ヘリテージ・センターという素敵な場所です。
とても良い雰囲気の中で、発表会を迎えられます。
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今日も、学生たちは精力的。まずは会場設営から始まります。

舞台設営やら、楽屋作り、衣装係、大道具、小道具、照明など、学生たちはそれぞれに役割を決めて働いています。

演劇学校ですので、これも授業の一環のようです。
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今日から、もう一人能楽師が日本からやってきました。
能楽師3人体制となり、少し余裕が出てきました。

会場設営が終わり、今日はフルで装束を着けてリハーサルです。
本番を想定しての通し稽古です。

学生たちはもちろんですが、私達能楽師たちの楽屋のシミュレーションも大切です。

なにせ、延べ22人もの登場人物が、入れ替わり立ち替わり出入りします。

最初は、21人の学生が3人ずつ7組になり、仕舞です。
仕舞の地謡も学生達が担当します。

仕舞が終わった人から、順々に装束を着けていきます。
「紅葉狩」のお役の人が「邯鄲」の地謡を謡い、「邯鄲」のお役の人が「紅葉狩」の地謡を謡います。

ワキツレなど、先にお役が終わった人は、急いでゆかたに着替えて後見を担当。

もう、目まぐるしく人が出入りします。

全く日本語の分からない学生たちに、指示を出して動かすのは大変です。

今日私は一つミスをしました。
「邯鄲」で、シテが途中で片袖脱ぎます。
さすがにその後見は学生には無理なので、私が出ていくことになっていました。

ただ、「邯鄲」の中頃、もう「紅葉狩」の前シテ・前ツレの装束をシャカリキになって着けています。
うっかり、決められた場所で舞台に出ていくことを忘れていました。

学生たちは気付いたようで、私に「先生、袖(sleeve)を・・・」と言ってきます。

装束を必死につけていた私は、よく聞き取れませんでした。
しきりに「sleeve,sleeve」と言ってきます。

私は「sleep」に聞こえます。
「邯鄲」は、シテが寝る場面があり、学生たちはよくその真似をしていました。

「今は、寝る場面じゃないよ」

と答えて涼しい顔をしていました。。。。。

「sleeveと、sleep」
英語って難しいですね。


慌ただしかったリハーサルも終わりました。
それぞれ課題もありましたが、まあここまで来たら、明日思い切ってやるだけです。

終わった後は、近くで学生たちと飲みました。
明日は午後からなので、今日はゆっくり飲めます。
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大好きなシンガポールのビールタイガービールを思う存分飲みました。
これは、タイガータワーといって、4リットルくらい入るビールの樽です。

最初は、グラスでビールを頼んでいましたが、途中でこれに切り替えました。

しかし、15人くらい学生たちはいたので、瞬く間になくなっていきます。

このタイガータワーが、どんどんおかわりされていく様は壮観でした。

さあ、明日は本番です。



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2017年03月04日

2017シンガポール最終便 3

今日は土曜日ということもあり、一日中稽古です。

9時から夕方6時くらいまでみっちりと稽古。

 

学校で行う最後の稽古です。

本番同様に、装束を着けて通してみました。

 

それがまあ、大変なこと大変なこと。

 

「邯鄲」が、シテ2人、ワキ、ワキツレ2人、子方2人、アイ、と8人。

「紅葉狩」が、前シテ、前ツレ5人、ワキ、ワキツレ2人、アイ、後シテ、後ツレ3人、と14人。

 

それだけの装束を2人の先生で着けます。

一人ずつ着けながら、気が遠くなってきました。

 

やはり、装束をつけると、ぐっと様になります。

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しかし、やはりいつもと勝手が違うようで、思わぬミスが出てきます。

そんなところを、最終調整の稽古でした。

 

終わった後は、先生も学生もぐったり。

 

さあ、来週からは発表会の会場となる「マレー・ヘリテージ・センター」に移動して、リハーサルと本番を残すのみとなりました。

 

 

ところで、稽古が終わった後私はシンガポールの国立競技場に向かいました。

ラグビーの試合を見るためです。

 

今、日本トップリーグの選抜チームは、サンウルブスとして、オーストラリア・ニュージーランド・南アフリカの強豪チームで行われるリーグ戦「スーパーリーグ」に参戦しています。

 

いろいろな事情があるようですが、なぜか日本のチームなのに、年3回はシンガポールでホームゲームを戦います。

シンガポール在住の後輩から誘われて、その試合を見に行きました。

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シンガポールの国立競技場は、全天候型の開閉式屋根を備える、世界最先端のスタジアムです。

ラグビーの試合も見たかったのですが、そのスタジアムも見てみたいと思っていました。
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残念ながら、日本のチームは敗れてしまいましたが、楽しい観戦でした。



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