2017年02月

2017年02月27日

2017シンガポール最終便 1

悪戦苦闘のシンガポールでの能の稽古も、いよいよ今回が最終回。

来週火曜日の発表会に向けて、今週は追い込み稽古です。

 

今回も、学生が21人もいるので、能「邯鄲」と能「紅葉狩」に仕舞と、盛りだくさんの内容となります。

シテ・ツレ・ワキなど、学生たちに役をそれぞれ割り振り、全て日本語で上演します。

 

学生達にとって、謡を覚えるのがなによりも大変のようです。

さすがに全て上演すると長くなりすぎるので、「邯鄲」「紅葉狩」共に、謡は大幅にカットしています。

それにしても、全く意味が分からない日本語を覚えるのは、難しいようです。

 

まあ、そうでしょうねえ。私だって例えばギリシャ悲劇やインドの古典演劇のセリフを覚えろと言われたら、途方に暮れてしまいます。

 

先週までは、なるべく全ての学生に各役を経験させるため、特に配役は決めずに場面ごとに役を入れ替えて稽古していました。

 

その稽古の具合を見て、配役を決めて発表したのが先週の最後の稽古。

通して能を稽古するのは、今週からです。

つまり、わずか1週間しかありません。

 

我ながら、なかなか無謀なことをやらせているなあとも思います。

 

まあ、どうなることやら。



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2017年02月26日

漆かぶれ

春一番が吹き、春の嵐となった先週の金曜日に日本に帰ってきました。

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常夏のシンガポールから帰ってきて、日本はどれだけ寒いのかと思いきや、金曜日の気温は20度超え。

その後も暖かい日が続きます。

 

冬の東京と夏のシンガポールを行ったり来たりしています。

 

「気温差がかなりあるから、大変なんじゃない?」

 

よく言われますが、意外とあまり気になりません。

もっとも、そもそも炎天下の中や寒空の下で仕事しておりませんので、そんなに気温差を感じません。

東京でも、室内は暖かいですし、シンガポールでもクーラーがガンガン効いていて寒いくらいです。

 

むしろ、気になるのは湿度です。

シンガポールの気候は、基本的に真夏の東京と同じです。そう、高温多湿です。

 

そこで暮らしていて、汗をかくため毛穴が開いている状態で東京に帰ってくると、カラカラの湿度。

一瞬にして肌が乾ききってしまいます。

 

そんな生活を続けていたせいか、シンガポールで能面を、学生たちの見本として少し着けたら、まんまとかぶれてしまいました。

 

能面の裏には保護のため漆が塗っています。

かぶれる人も多いので、今回は漆を削ってある能面を持っていきました。

 

でも、少し残っていたのでしょう。それにかぶれてしまいました。

もともと、漆には弱いのですが、削った能面で、しかも見本として30秒から1分くらいしか着けていないのにかぶれてしまうなんて、肌が弱っている証拠です。

 

次の日、学生たちに聞いてみました。

 

「私はこのようにかぶれてしまいました。みんなは大丈夫でしたか?」

すると、かぶれた学生はいませんでした。

そもそも、漆を知らない学生たちは、私が何故かぶれているのか分からないようです。

 

まず、漆というものから説明しなければなりません。

 

そして、皆に軽く言いました。

 

「みんなは顔がじょうぶだなあ。私一人繊細な肌をしているよ」

 

私は 「My skin is sensitive」 と言いました。

 

するとオーストラリア人の学生がすかさず

「先生の肌はsensitiveではなくて、SENSEI TIVE(先生ティブ)です」

 

普段、私のことを日本語で「SENSEI」と言ってくれる彼ら。

流石にネイティブは、上手いことを言います。


さあ、今晩からまたシンガポールへ行きます。



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2017年02月15日

2017シンガポール第三便 2

シンガポール滞在中に宿泊しているのは、学校が借りている2LDKマンション。

チャイナタウンといって、中国系のお店やレストランがたくさんある街にマンションはあり、そこで現地の人に交じって快適に過ごしています。

 

今日は、マンションの目の前が凄くにぎやかです。出てみると、通りを封鎖して大きなパレードだかイベントが行われていました。

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たぶん、今週末で正月期間が終わるので、それを祝ってのイベントだと思われます。

 

おそろいの衣装に身を包んだ色んなグループが、思い思いにパフォーマンスをしています。

日本でいうところのよさこい祭りのような感じですかねえ。

 

しかし旧正月が128日。いつまで正月は続くんだろうと思ってシンガポールの人に尋ねると、

 

15日間は、正月期間ですね」

私は納得して

「そういえば日本でも115日までが正月と言われますね。同じですね」

と返しました。本来なら、ここで終わっていた話です。でも、そのあと彼女が続けた言葉にハッとしました。

 

「そうそう、新月から満月までが正月なのですよね」

 

そうか、それで正月は15日までなんだ。

 

いうまでもなく、太陽の動きに合わせて暦を定めているのが太陽暦です。現在世界中で使われているカレンダーです。

一方、月の満ち欠けによって暦を定めたのが太陰暦。日本では旧暦とも言われますが、昔からアジア各国(主に中国の文化圏)ではこちらのカレンダーを使っていました。

そう考えると30日の組み合わせを、一月・二月・・・ と数えていくのは納得です。
もし最初から太陽の動きを元に暦を作っていたら、30日の組み合わせは、一日・二日・・・
となっていたかも知れません。(なんだかややこしいですが)

 

太陰暦は基本的に、新月の日が1日で、満月の日が15日。

月が新しく生まれる新月を、月の初めの日と定め、満月となる15日は最もエネルギーがあふれる日とみなします。

中秋の名月は、旧暦の815日です。日本ではどちらかと言うとすたれた行事ですが、中国では中秋節としてかなり派手に祝います。

 

「正月は新月から満月まで」この言葉の中には、古来より月の満ち欠けを見ながら日々を過ごしていた人々の暮らしが垣間見えます。

なんとなく15日がキリの良い数字だからそこまでが正月なのかな。

そんな風に考えていた私は、妙に納得しました。

 

 

旧暦から新暦になって、うるう月などというややこしいものもなくなって、合理的になりました。

でも、日本人が大切にしてきた季節感のようなものは、だいたい旧暦に合わせられています。

 

本来正月の今の時期に咲く花である梅。

だから正月に真っ先に咲く花として、古来よりおめでたい花とされてきました。

新暦の正月に梅は咲きません。

 

節分は春を迎える行事です。

節分は、文字通り季節を分ける日。節分が終わると立春です。

だから、節分は大みそかと同じ意味で考えられてきました。だから、能「絵馬」では節分の日に次の年の国土安穏を祝って絵馬をかけます。

だから、正月は新春と呼ばれます。新暦の正月は、冬の真っただ中です。

 

正月最後の日、学生たちと食事に行く途中の美しい満月を見ながらそんなことを考えました。

 

 

ところで、満月を見て私は学生たちにこう言いました

「日本では、月にはウサギがいると言われているんだよ」

 

「中国でもそうです」

「インドでもそうです」

 

中国はなんとなくわかるけど、インドでもそうなんだ。驚きました。

アジアの国々は、シルクロードで結ばれていて、深いつながりがあるのだなあと感心しました。
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2017年02月11日

2017シンガポール第三便 1

一度日本に戻って5日後の29日、雪の降る東京を後にして再び常夏の楽園・シンガポールにやってきました。

いよいよ第三便です。

 

能の稽古もひと月が過ぎ、学生たちはみるみる上達してきました。

すでに「鶴亀」「紅葉狩」「羽衣」「邯鄲」「屋島」「中之舞」の稽古を終え、徐々に発表会で取り組む能「紅葉狩」と「邯鄲」の稽古に移っています。

 

わずか一か月とはいえ、1日4時間の稽古を毎日積んでいます。結構ハードな稽古です。

 

徐々に、着物を着せて稽古も始めました。

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お互いに教えあいながら、自分たちでゆかたと袴がはけるようになりました。

 

また、能面を付けての稽古もしています。

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能面は役者の魂であるとの精神を最初にきちんと教え、丁寧に扱うよう指導しました。
能面も自分たちで着けています。

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能「紅葉狩」で、最初に立ち並ぶシーンです。見えていれば何ということのないシーンですが、能面を付けて限られた視界では、きれいな三角形のフォーメーションを組むことは、至難の業なのです。

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稽古順調に進んでいます。
さあ、
37日の発表会の舞台に向けて張り切って稽古しましょう。



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2017年02月02日

2017シンガポール第二便 2

シンガポールに能を教えに行くようになって、今年で15年目になります。

15年前に1期生を教えて、今回が9期生と10期生。

 

その間に色んな学生を教え、様々な学校のスタッフと接してきました。

 

それなりに人間関係も出来ました。

最も、英語がそんなにしゃべれる訳ではないので、親しい関係まで至っていないのは残念ではあります。

 

ただ、何人かは日本に公演や旅行で来たとき会いましたし、シンガポールでも滞在中にちょくちょく会います。

 

とても嬉しいことです。

そんなこんなで、日々それなりに忙しくしています。

 

 

昨日は、高校の後輩と会いました。

外資系の大手企業に勤めている彼は、只今シンガポール勤務ということで、一緒に食事しました。

 

シンガポールへは20回以上来ていますが、初めて日本料理の店に行きました。

私は、外国で日本料理の店にはほとんど行きません。

日本料理は日本で食べられるので、わざわざ行くこともないと思うからです。

それより、せっかくだから現地の料理を楽しみたいと思います。

 

ただ、彼のようにしばらく日本を離れていると、やはり和食が恋しくなるのでしょう。その気持ちわかります。

私はせいぜい、ながくても10日くらいで日本に帰ります。恋しくなる前に帰れるのです。

 

先日も学生が

「先生、このまえ『Genki Sushi』にいきました」

と言ってきます。

 

「ああ、日本の寿司のチェーン店だね。シンガポールにもあるの?」

 

「なんと、お皿が回ってくるんですよ。とっても美味しいですから、今度一緒に行きましょう」

と誘われました。

 

「寿司は、日本で食べるからいいよ。それより、美味しいチキンライスでも食べに行こう」

私は、あっさり断りました。

 

 

さて、シンガポールで初めて行った日本料理の店ですが、、、、

普通に美味しい和食の店でした。

 

日本人が日本人のスタッフを使って経営しているのだから当たり前です。

メニューも日本語で、お客さんもほとんど日本人。

 

一緒に食べている相手も日本人で、当然日本語で会話しています。

 

まあ、こんな食事も、安心できて良いですね。

 

 

さて今日は、午前中に15年前に通訳をしてくれた方と会いました。

今は、シンガポールで大学の先生をしていて、その学校を案内して下さいました。

 

その大学は、シンガポール大学とアメリカのエール大学が共同で設立した学校です。

そこで学べば、シンガポール大学とエール大学両方の学位が取れるそうです。すごい学校です。

 

学生はほとんどが留学生という、シンガポールらしい大学です。

 

素晴らしい環境の大学です。そして、とても静かなのに驚きました。

そのことを聞くと、当たり前そうに、

 

「だって、今は授業中だから」

授業中でも、授業に出ない学生たちで賑やかな日本の大学に慣れている私には、驚きでした。

 

 

さて夜は、昔の学生がでているという芝居を見に、エスプラネードシアターに行きました。

この劇場は、外見が果物の王様・ドリアンに似ていることが有名で、シンガポールのランドマークの一つです。

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彼女は、シンガポールでとても人気のある女優のようでして、2月3日から6日までの公演は完売だそうです。

特別に、前日の2日に行われたドレス・リハーサルを見せてもらいました。

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ドレス・リハーサルとは、メディア向けに行われる公演です。そこで写真などをとって、新聞やTVなどで紹介するのです。

 

劇は、何と彼女の一人芝居。

1時間半ほどの時間のあいだ、彼女は語って歌って踊って大活躍です。

 

彼女の一人芝居の公演が、小劇場とはいえエスプラネードシアターが完売になるのですから、彼女の人気のほどが知れます。

TVCMでとても活躍している女優だそうです。

 

終演後、ドレス・リハーサルなので舞台にあいさつに出てきました。

彼女は、私を見つけると

 

「先生、来てくれたの」

といって、両手を広げます。

 

これは、ハグしましょうの合図。

どうも、この習慣はなかなか慣れません。

 

ただの挨拶なのですが、公衆の面前でシンガポールの人気女優とハグするのですから、どうしても照れてしまいます。

 

まあ、これも長年シンガポールで能の先生やっている役得ですかね。

彼女とは、簡単な挨拶をかわして劇場をあとにしました。

 

一緒に見に行った学生たちも、先輩の活躍に興奮した様子です。

 

さあ、今度は君たちの番だよ。頑張って有名な役者になってくれ。

私は絶対に見に行くから。



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