2016年12月
2016年12月31日
御礼 2016年
今年もお世話になりました。
今年は特別にハードスケジュールでした。
特に秋は目が回るような日々。
9月から12月28日まで、休日は3日しかないという有り様。
ただ、その数少ない休みの中の1日、たまたまプロ野球観戦に出掛けた日が9月10日の東京ドーム。
そうです、家族揃って応援している広島カープが25年ぶりの優勝を決めた試合です。
そう思うと、今年は良い一年だったかなあと思います。
今年は、6番の能を演じました。
2月14日九皐会「海士」
5月21日能まつり「鉢木」
8月6日九皐会「歌占」
8月12日深川八幡祭能奉納「羽衣」
10月21日文化庁巡回公演「安達原」
12月17日緑泉会「隅田川」
初の九番習「鉢木」「隅田川」を続けて初演致しました。
どちらも手強い能で、悪戦苦闘しながら稽古に励んだものです。
九皐会定例会では初めて年二番の能をさせて頂きました。
「海士」は次男・大志郎、「歌占」は長男・潤之介との共演でした。
子供達二人とも、今年は多くの子方を演じました。
長男は5番、次男は4番。さらに深川八幡祭能奉納と静岡と東京の社中の発表会にも出演しています。
親子共々、大忙しの一年でした。
また、忘れられないのが、母校の広島大附福山中学で演じた「安達原」です。
バスケ部にて汗を流した思い出の体育館に、特設能舞台を設えての演能でした。
心に染み入る舞台となりました。
春には、バリ島へ家族旅行をし、夏には伊勢参りから和歌山のアドベンチャーワールドを回って広島でカープ観戦と、忙しい中でもスケジュール調整して家族との時間をとることが出来ました。
仕事にプライベートに、充実した一年だったように思います。
来年も、どうぞ宜しくお願い致します。
2016年12月18日
「隅田川」御礼
緑泉会「隅田川」、無事に終わりました。
当日はそんなに寒くなく、素晴らしい天気のなかたくさんのお客様にお運び頂きました。
ご来場の皆様に厚く御礼申し上げます。
実はこのひと月ほど、ずっと右ひざを負傷していました。
今年は文化庁巡回公演で地方巡業が多かったので、身体のあちこちに疲れが溜まっています。
連日の電車・飛行機・バスの移動で、背中から腰までパンパンに張っています。
そんな中、ちょっとしたひざの負傷がすごく長引いています。
12月前半は、正座をするのもシンドイ有り様でした。
こんな膝では、「隅田川」の長丁場の能はとても演じられません。
立ち居の度に、「どっこいしょ」となってしまい激痛が走ります。
体力には自信がありましたが、もろくも崩れさりました。
とにかく、なるべく「隅田川」は良いコンディションでやりたいと思い、治療に専念しました。
ヒマを見つけては、整骨院とハリ治療通いです。
医者からなるべく正座はしない方がよいと言われたので、直前の2週間くらいは、お弟子様のお稽古も椅子に座って行いました。
その成果があって、当日は痛みはほとんど引きました。
全く、情けない限りです。
さて、コンディションは何とか整えました。
あとは、舞台上でいかに演じるかです。
この「隅田川」ほど、直前まで試行錯誤しながら稽古したことはありません。
普通は稽古していくうちにある程度方向性が定まるのですが、この能はそうはいきません。
この一週間ほどは、自分の手に負えない能だなあと感じていました。
「とにかく、やるしかない」
やっと、開き直れて自分の方向性が定まったのは申合が終わったころでした。
先日の日記に書きましたが、「隅田川」は解釈の分かれる能です。
能を代表する悲劇であり、九番習の大曲なので、しっとりと演じるやり方と、あくまで狂女物なので、狂いを強調するやり方。
私は後者の方に比重を置いて演じたいと思っていました。
とはいうものの、この解釈は当然どちらか一つの方向というわけにはいきません。
場面場面において、「ここはしっとりと」「ここは狂乱の心持で」と変わっていきます。
その比重がなかなか定まらなかったのです。
申合が終わって、妙にしっくりと納得できました。
三役を交えて能一番を通して演じてみて、今までの迷いが吹き飛んだ感じです。
いろいろ考えるより、実際に体を動かして演じてみるのが何よりのようです。
最初の「一声」という登場音楽、私の想定よりしっかりと演奏されました。
この「一声」の位が能の全体を左右するといっても過言ではありません。
囃子方は、私より遥かに経験のある大御所の方たちです。
ここは、私の考えを主張するより、囃子方が作るムードや位に乗っかった方が上手くいきます。
前半は、首尾よく引っ張って頂きました。
中ほどのワキとに対話になると、徐々に主導権を握っていった感覚です。
前半に能「隅田川」の世界観がしっかりと作られているので、スムーズに対話できます。
なんか、今回はこういった能舞台の場の流れとか空気感のようなものが、とても感じられました。
今まで場面場面をどのように演じるか、さんざん試行錯誤したのが、ここに生きてきたように思います。
ワキの語りの後、いよいよ悲劇的な内容になっていくところは、あざといくらいに演じました。
少々ケレンが強いかなあとも思いました。
終演後に、先輩からも「ずいぶんやってたなあ」と言われました。
まあ、ここは派手にやろうと前々から決めていました。
今まで、いろいろな人の「隅田川」を見てきました。
我が子の死を知らされて、いかに狂乱するか。
この場面のクルイ加減がこの能の印象を決定づけます。
私が演じたいと思っていた「隅田川」は、我を忘れて最高潮に狂乱するやり方です。
ここで泣き叫ぶから、その後の落胆ぶりが協調されるように思います。
その後は、魂が抜けた抜け殻のように演じました。
謡は声を抑え、構えもなるべく小さくして絶望感を醸し出すように工夫しました。
最後に我が子の幻を見た時、また狂気がはじけます。
嬉しさのあまり、子方に抱きつこうと突進しました。
いつもより勢いよく子方に抱きつきにいったので、次男はビックリしたようです。
喜怒哀楽をはっきりと見せたので、子供の幻が消えた後の絶望感が際立ったように思います。
この能は、我が子の死を悟り、全く救いのない終わり方をします。
お客様の心に、何とも言えない悲しさを残すことが出来れば良いなあと思っていました。
今回、嬉しいことが起こりました。
シテが退場してワキが退場して、作り物がひいて、囃子方と地謡が退場する。
その間、全く拍手が起こりませんでした。
普通は、シテが退場、ワキが退場、、、その度ごとに拍手が起こります。
でも、こういった悲劇の能で、万雷の拍手はなんかそぐわない気がします。
終演後、シテはゆっくりと橋掛かりを運び、揚げ幕へと退場します。
そこをなるべく絶望感を漂わせながら、呆然と運びました。
心の中で「拍手よ起こらないでくれ」と願いながら、幕にひきました。
私の中で、忘れられない「隅田川」があります。
師匠の観世喜之師が演じた時、お客様は拍手をするのも忘れて、「隅田川」の悲劇に酔いしれました。
その時も拍手は一切起こりませんでした。
師匠のような舞台は、とても勤められません。
でも、師匠のようにお客様を舞台に没頭させたい。
そう思ってきました。
能が終わった後、シーンとした能舞台。
何もない空っぽの舞台に、寂寥感があふれる。。。
そんな「隅田川」を演じたいと思っていました。
お客様がどのように感じられたかは分かりません。
ひょっとしたら拍手に値しない舞台だと思ったのかもしれません。
自分としては、とてもよい手ごたえを感じました。
子方を演じた次男は、本当によくやっていました。
長男はこの能の子方を、稽古能を含めると4回演じています。
いずれも6~7歳の頃でした。
その年代だと子供も落ち着きがなくて親は冷や冷やです。
次男は今回9歳で初めての「隅田川」の子方でした。
やはり、それくらいの年代になれば、落ち着いて演じられます。
この能の子方は、12~13歳という設定ですが、その年代の子供が演じることはまずありません。
やはり小さな子供のほうが、かわいらしくて、より悲劇性が増します。
今回、次男はギリギリかなあ、という感じでした。
これ以上大きいと、「隅田川」の子方としては難しいように思います。
ある程度落ち着きをもって演じることが出来、それでいてギリギリかわいらしい絶妙のラインでした。
技術的には課題も多く、自分の力量のなさを痛感しました。
ただ、試行錯誤を重ねたぶん満足いく舞台成果が得られたように思います。
今はとにかく、疲れました。。。
2016年12月04日
「隅田川」を演じるにあたって
上記のチラシの通り、12月17日(土)緑泉会にて能「隅田川」を演じます。
この能は、能を代表する名曲とたたえられ、今まで数々の名演が能楽史に刻まれています。
物語はわかりやすく、子供との死別というこの上ない悲しみを題材にしているので、観客は感情移入しやすい能と言えます。
イギリスの劇作家ベンジャミン・ブリテンが、隅田川に感銘してオペラ「カーリュー・リバー」を作るなど、内外の様々な作品のモチーフともなっています。
「隅田川」は、それくらい完成度の高い作品と言えると思います。
私も「隅田川」は大好きです。いくつもの舞台が心に焼き付いています。
「いつか『隅田川』が演じられるような能役者になりたい」
そう思って能の修業の道を歩んできました。今回、その機会を得ることができ、興奮しています。
「隅田川」は、よく悲劇と呼ばれます。
確かに、チラシのあらすじをざっと読んで頂ければわかりますが、子供と生き別れた母親が諸国を旅するうちに子供の死を知り、泣き崩れるという、わかりやすい悲劇の物語です。
でも、この能は単なるお涙頂戴の悲劇ではありません。
忘れてならないのは、狂女物であるという点です。
能の中において狂女とは、芸能者のことです。
一般に狂女物とは、母親が生き別れた子供を捜すために、芸能を見せながら諸国を巡ります。
そこで見せる芸尽くしが、狂女物の見せ場であり、親子の物語はあまり重要視されません。
ほとんどが、最後にあっさりめぐり逢っておしまいです。
「隅田川」は、そういった狂女物というジャンルの中で、唯一子供とめぐり逢えません。
幻の我が子の姿に遭遇するだけです。
どうしても、その悲劇性が注目されます。演じる力点も、そこに集中してしまいます。
しかし「隅田川」は、やはり狂女物なのだと思います。
それも最高級の。
前半は、狂女物らしく重くれずに小気味よく演じたいと思います。
最高級の狂女物として、やはり芸尽くしの場面こそが大事なように思います。
その軽快な導入があるから、後半の悲劇が生きてくるのではないでしょうか。
子方は、次男・大志郎(9歳)が演じます。
去年に引き続いて親子共演になります。
能が大好きな次男は、楽しくてしょうがないという様で、お稽古に励んでいます。
ずっと演じたいと思い続けていた憧れの能です。誠心誠意演じたいと思います。
チケットご希望の方は、下記の、「桑田貴志公式HP」にてお申込みください。
能楽師・桑田貴志 深川能舞台WEBサイト
http://www.geocities.jp/kuwata_company/
緑泉会「隅田川」 ご案内
来る12月17日(土)、緑泉会にて上記のチラシの通り、能「隅田川」を演じます。
我ながら、いよいよ「隅田川」を演じるのかあ、と感慨深いものがあります。
能を代表する名曲といって差し支えない人気曲に、いよいよ挑みます。
長男は、この能の子方を3度演じていますので、今度は次男に子方をやらせます。
親子ともども、とても張り切ってお稽古に励んでおります。
お稽古をつんでみて、この能の難しさが身にしみます。
精一杯取り組んでいきます。
チケットは絶賛発売中です。
ご希望の方は、下記HPよりお申込みください。
能楽師・桑田貴志 深川能舞台WEBサイト
http://www.geocities.jp/kuwata_company/