2014年06月
2014年06月28日
「邯鄲」自分探し
この時、マイクのトラブルがありましたが、かえって場内が盛り上がって良かったかもしれません。
さて、その挨拶でも触れましたし、当日番組にも書きましたが、今回の「邯鄲」のキャッチフレーズは、「自分探しの旅」でした。
ただ茫然と明かし暮らしていた盧生が、身の一大事を尋ねて旅に出かけたのを、「自分探しの旅」と銘打ったのです。
当日番組に
「悟りを得て意気揚々と帰路に着く盧生を演じた後、私は何を得ることが出来るのでしょうか?」
と書きました。
能「邯鄲」が終わり、ゆっくり橋掛りを歩みながら、ふとそのフレーズが頭をよぎりました。
「私が得たこと? ・・・・無いなあ」
「邯鄲」のシテ・盧生は簡単に悟りを得たようですが、私はこれからも続く能役者としての道に思いを馳せながら、こう思いました。
「私は能の道を、歩み出したばかり。たかだか一番能を演じ終えた位で何か得ようなんて、おこがましいよ」
「自分探しの旅」は、まだまだ続きます。
2014年06月22日
「邯鄲」御礼
第5回 桑田貴志 能まつり「邯鄲」
無事終わりました。
満員のお客様を迎え、滞りなく運営できたことは主催者としては感無量です。
ご来場の皆様、御礼申し上げます。
今回は、主催公演での初めての親子共演です。
楽屋内はとにかく慌ただしかったです。
主催公演はいつだって忙しいのですが、今回は子供の世話もしなくてはならないので、倍疲れました。
「邯鄲」は、とにかく為所の多い能です。
最初はナイーブな青年として現れます。
夢の中では皇帝となり、50年の人生の栄華を謳歌します。
最後は夢から覚めて、悟りを得る。
この様に、一つの能の中で様々な役割を演じ分けなければなりません。
能にしては破格の構成です。
最初は、じっくりと謡を謡い、常の能のような導入です。
「次第」の登場囃子でゆっくり登場して、じっくり「次第」「名ノリ」「道行」の謡を謡います。
ここは、申合で具合の悪かったところです。
慎重に謡いました。
その後、アイとのやりとりがあって、邯鄲の里で宿を借ります。
宿屋で枕を借りて夢に落ちるときは、ナント一畳台の上でゴロンと横になります。
こんなこと、他の能では決してしません。
こういう演技はとっても難しいのです。
全ての所作に美が求められるのが能という演劇です。
その辺のおっさんが、「よっこらせ!」 と寝っころぶわけにはいきません。
なるべく無駄のない、美しい動きでゴロンと横になるように心がけました。
言葉では、動きのニュアンスは伝えられないのですが、細心の注意で横になりました。
夢の中では、皇帝として堂々と演じなければなりません。
上の写真は、台上で両手を掲げ、皇帝の威厳を示すシーンです。
ほとんど動かず、居佇まいで皇帝にならなければなりません。
これも、至難なことです。
この時、舞台上に子方と大臣3人が居並んでいます。
長男がどうしているか気になりましたが、実は能面をつけている私には、長男の姿は全く見えません。
見えないと、ますます気になります。
まあ、気にしないようにしました。
その後の子方の舞も、私の前を通るとき、断片的に見えるだけです。
きっと首尾よく舞っているだろうと、信じることにしました。
その後、一畳台の上で「楽」という重厚な舞を舞います。
畳一枚分のスペースで舞わなければなりません。難しい舞です。
ただ、稽古は嫌というほど積みました。
スペースが狭いことによる舞いにくさは、ほとんど感じませんでした。
それより盲点だったのが、一畳台を覆う、台掛けという布きれの上で舞うことでした。
板の上と違って、フェルトの布の上は足にまとわりつきます。
それに、布が動いて落ち着かず、とにかく舞いにくかったです。
狭いことの舞いにくさは想像できたので、懸命に対策を練りましたが、布の上で舞うことの難しさなど、全く思いもよりませんでした。
あと、やはり能面をかけると遠近感がつかみづらいなあと思うところはありました。
それを言い訳にするわけではないのですが、舞の型を一か所間違えてしまいました。
稽古では一度も間違えたことのない場所です。
やはり舞台って怖いですね。
思わぬ場所での間違えでしたが、落ち着いてリカバーしました。
まあ、相対的には上手く舞えたかなと思います。
眼目の「空下り」という技もピタリと決まりました。
これは、わざと一畳台から踏み外して、慌てて台上に柱につかまりながら戻って首を振る型です。
一瞬落ちそうになることで、観客をはっとさせる効果と共に、夢から覚めそうになっていることの暗示です。
舞を舞っている時、チラチラ子供の姿が見えます。
なかなか堂々と座っています。
一週間前の「桜川」の子方では、へにゃへにゃになってしまったので、この一週間、座る稽古を毎日しました。
やはり、稽古を重ねると座り方も綺麗になるものです。
この能の子方のしんどいところは、20分くらい座った後、シテが夢から覚めるシーンで、おもむろに立ち上がるや否や、切戸口へ素早く行かなければなりません。
足がしびれたまま急に動くので、焦って転んでしまうこともあります。
何度も稽古したので、長男は自信を持ってやっていたようです。
(例のごとく、能面をかけている私には全く見えません)
後で本人に聞くと、「痛かったよ」とは言っていましたけど。
今回は、夢から覚めるシーンで「飛び込み」の大技をやってみました。
これは、夢から覚める前、一畳台の横から台の上へ飛び込み反転して、空中で寝る姿勢を作ってそのまま台上へ飛び降りるという、ケレン味たっぷりの技です。
危険なので、普通はやらないのですが、せっかくなので挑戦してみました。
ケガが怖いので、練習はしませんでした。
本番一発勝負です。
能面をかけて視界がほとんどありません。
体に染みついている能舞台の広さの感覚だけが頼りです。
だいたいこの辺かなあと思う所へ走りこんで、体をひねって「エイや」と思い切って飛んでみました。
タイミングがずれると、大惨事になりかねない大技でしたが、バッチリ決まりました。
「おー!!」
とお客様が思わず声を上げているのが聞こえました。
その後、夢から覚めた後はしんどかったです。
その前に動きの激しい舞を舞って、最後には「飛び込み」という大技を決めて心拍数はMAXです。
ハアハアいう動悸を抑えて、低く深い発声で謡います。
50年の栄華から覚めて、夢かうつつか分からないまま茫然とした様を表現しなければなりません。
ここの謡が、「邯鄲」の最大の難所だと思います。
気力を振り絞って謡いおさめました。
終わってみて、「なんだか楽しかった」と思いました。
こんなこと感じたのは初めてです。
多分、舞台の上で一生分を生きたからでしょう。
2014年06月21日
「邯鄲」前日
チケットもほぼ完売となりました。
若干、当日券も出るかと思います。
今日は、明日に備えて完全にオフにしました。
自分の稽古は当然として、子供の稽古もしなくてはなりません。
また、主催公演ですので様々な準備をしなくてはなりません。
今日は一日かけてじっくり調整です。
先日の火曜日に申合があり、いくつか課題も見つかりました。
申合から中4日。じっくり見直すことが出来ました。
子供も同様です。少々課題がありました。
今週は、あまり仕事を入れていないので、夕方は毎日家にいます。
夕方、学校から帰ってくる長男を捕まえて、毎日お稽古に励みました。
我ながら良い準備が出来たと思います。
充実した舞台となるよう、心して勤めます。
2014年06月15日
能まつり 「邯鄲」
自身の芸の研鑚のため主催公演「桑田貴志 能まつり」も、おかげさまで5回目の公演を迎えます。
5回目を記念して今回は「邯鄲」を演じます。
この能は、とても劇的な構成をしています。
シテの蘆生(ろせい)という青年は、人生に迷い旅に出ます。邯鄲の里にて不思議な枕で眠りにつきます。使者に起こされ、なんと帝に即位します。その後、50年もの栄華を極めた後、目が覚め全てが夢であったことを知ります。50年の栄華は、しょせん午睡の間の出来事に過ぎないと悟った蘆生は晴れやかに故郷へ帰ってゆく・・・
というのが「邯鄲」のあらすじです。
人生に迷った青年が50年の栄華の後に悟りを得るという内容が、今の私にピッタリかなと思いこの能を選びました。
観世喜之師のもとに入門してから、ずっと「自分探し」をしていたように思います。
その一つの形が、自主公演「能まつり」でした。
発会以来5年間。まだまだ「自分探し」の歩みは途上です。
悟りを得て意気揚々と岐路に着く蘆生を演じた後、私は何を得ることが出来るのでしょうか?
懸命に取り組んで、良い成果を上げたいと思います。
この子方は、長男・潤之介(小学校2年生)が勤めます。
昨年・岡山後楽能の「船弁慶」に続いての親子共演です。
シテと子方という形での共演は、東京では初めてとなります。
親子共々、張り切って頑張ります。
仕舞は、観世喜之師の「楊貴妃」と観世喜正師の「天鼓」。
「邯鄲」同様に中国を舞台とする能です。
ひと時の異国情緒を、楽しんで頂ければ幸いです。
狂言は昨年に引き続き、TVや映画など多方面で活躍されている
人気狂言師・野村萬斎師にお願いしました。
「佐渡狐」という面白い狂言です。萬斎師の華麗で洒脱な芸を、お楽しみ下さい。
この公演、いよいよ来週と迫ってきました。
紹介が遅くなりまして申し訳ございません。
チケットの残席も、少々、ございます。
ご希望の方は、公式HPhttp://www.geocities.jp/kuwata_company/
からお申込みください。
2014年06月13日
「桜川」子方
今日は「のうのう能」で「桜川」です。
長男・潤之介が子方をさせて頂きました。
この「桜川」の子方は、謡は一句もなく、出てきてただ座っているだけという役です。
そう聞くと、「なんだ、簡単な役だなあ」
と思うかも知れません。
そうです。ただ座っているだけです。
でも、子供にとってじっと座っているだけというのが、大変なのです。
それも座っている時間は45分間。
しかも、立膝立てた状態で、身じろぎもせずに座っていなければなりません。
試しに、左膝を立てて右足だけで背筋を伸ばして座ってみてください。
多分、20分も座っていられないと思います。
8歳の子供には、ツライことです。
何度か座る練習もして臨みました。
申合はそのかいあって、何とか座っていられました。
何とかなるかなあ、、、 と思って当日を迎えました。
しかし、問題は能の始まる時間です。
「のうのう能」は働いている人にも鑑賞しやすいよう、夜7時開演となっています。
能「桜川」の開始は8時過ぎでした。
終了は9時15分。
いつもは寝ている時間です。
案の定、座って15分もすると、眠そうにしています。
結果的に、だいぶん動いていました。
後で本人に聞いたら、眠いのを何とか我慢していたそうです。
うーん。。。。
まあ、しょうがないか。
「寝たらご褒美はあげない」
と言ってあったので、本人はご褒美をもらえないと思ってしょんぼりしています。
「今回は、許してあげよう。明日、おもちゃ屋さんに行くよ」
長男は、ホッとした顔でにっこりです。
その顔に免じてあげましょう。