2012年10月
2012年10月28日
ぶちこわし
今日は、同門の先輩・鈴木啓吾師が主催する「一乃会」
能は「誓願寺」でした。
鈴木師は、鬘物に強いこだわりがあり、主催の会ではほとんど鬘物を演じています。
今回演じた「誓願寺」でも、幽玄の美を余すところなく表現していました。
その頂点とも言うべき、序の舞にさしかかります。
名古屋からご来演頂いた、竹市 学師の情緒的な笛の旋律を奏でます。
能楽堂内は、優雅な雰囲気で包まれます。
せわしない現実世界を忘れ、悠久の調べに浸っているその時。。。。。。
見所から、携帯電話の着信音がなり響きました。
今まで作り上げてきたムードはぶち壊しです。
もう、公害と言っていいほどの大迷惑です。
まあ、間違いや過ちは誰にでもあります。ついうっかり携帯電話の電源を切り忘れてしまうこともあるでしょう。
そこで慌てて、電源を切ってしまえば、傷は最小限で食い止められます。
しかし、その人は最悪の応対をしてしまいました。
大音量で鳴り響く携帯電話を手に、見所を横切り、廊下に出て電話に出ました。
防音扉になっていない、扉の向こうで、
「もしもし、オレだ。お、どうした・・・」
見所内に、通話の声が鳴り響きます・・・・・
能は、静寂の中に美を見いだす芸能です。
携帯電話は、絶対に切って下さい。
2012年10月27日
茉莉会 発表会
会場は、富士宮の「割烹旅館 たちばな」
富士山が日本一綺麗に見えると評判の、有名旅館です。
下記HPにて、その眺望をお楽しみください。
http://www.tachibana-fuji.co.jp/
2年前から、お稽古場として拝借しております。
富士山を一望できる大広間にて、気持ち良く謡と仕舞を発表しました。
6歳の長男には、仕舞「鶴亀」と素謡「百萬」子方をさせました。
仕舞はもう何度もやっているので、堂々としたものです。
素謡の子方は、謡は少ししか無いのですが、今回初めて最初から最後まで座らせてみました。
だいたい30分弱の素謡でしょうか。割に行儀良く座っていました。
足がしびれて立てなくなってしまったのは、ご愛敬です。
長男の舞台を見ていた次男も、自分もやりたいと、急遽飛び入り参加。
そろそろ次男も初舞台させますかねぇ。
お弟子様も、堂々と舞台を勤めました。
2005年に、沼津御用邸で初めておさらい会を行って以来、もう8回目の舞台です。
当時から参加している方々は、風格すらあります。
その間、矢来能楽堂の晴れ舞台も2回踏んでいます。
落ち着いた良い感じで演じていました。
一方、今回が初舞台の方が3名いました。
この方々の初々しさが、会に花を添えました。
ベテランの方々も昔を思い出して、ほのぼのと見ていました。
やはり、新しい人が入って来て、新風を吹かしてくれるって良いですね。
終了後は、同じ大広間で和やかに、宴会です。
割烹旅館だけあって、「たちばな」の自慢の料理に舌鼓。
宴会は盛り上がりました。
お弟子様が、皆帰られてから、もう一つのお楽しみ。
壮大な眺望の露天風呂です。
夜ですので、富士山は拝めませんが、美しい夜景が眼下に広がります。
我が家はそのまま、宿泊しました。
来週の11月4日には、東京のお稽古場のお弟子様のおさらい会です。
忙しく、休まらない日々が続きます。
どんなドラマが生まれるのか、楽しみです。
明日は、鈴木啓吾師の主催会「一乃会」にて、「誓願寺」の地謡。
朝、とんぼ返りです。
2012年10月18日
ドラえもん 秘密道具
今年は、何とドラえもんの誕生100年前だそうです。
漫画の中で、ドラえもんは2112年に生まれる設定になっているのです。
いろんなところで、生誕前100年が祝われています。 生誕から100年を祝われる人はたくさんいますが、生誕前100年を祝われているのはドラえもんだけでしょう。 先日の朝日新聞で、「ドラえもんの秘密道具で何が一番欲しいか」というアンケートをやっていました。 上位には、「どこでもドア」「タイムマシン」「タケコプター」などお馴染の秘密道具が並びます。。。。 もし私が、そのアンケートに答えるなら 圧倒的に「暗記パン」です。 これは、パンに本などをコピーし、そのパンを食べると、その本の内容を全て暗記してしまうという素晴らしい道具です。 日本男児の私は、圧倒的にご飯党です。パンはほとんど食べません。 でも、こんな暗記パンなら、謡本をコピーして何枚でも食べます。 暗記パンが、仮にとてつもなく不味いパンであっても。。。 根性で食べます!!
2012年10月14日
記憶力マラソン
今日は九皐会でした。私は、「浮舟」地謡と「紅葉狩 鬼揃」の後見。
「紅葉狩」の後見は、たいへんでしたが、まあ良く出る曲なのでそんなに滞らずに出来ました。
たいへんだったのが「浮舟」の地謡。
「浮舟」な2~3度謡ったことあるのですが、やはりなかなか出ない曲なので、結構覚えるのに苦労しました。
何といっても、その前のスケジュールがハード過ぎでした。
1週間前の10月6日が九皐会別会で、「松浦佐用姫」(シテ観世喜正師)。
前日の10月13日は、国立普及公演で、「大社」(シテ観世銕之丞師)。
これら2曲は全く始めて謡う能でした。
それはもう・・・・ 大変でした。
だいたい連日朝から夜の10時くらいまでは、舞台の仕事やお弟子さんのお稽古をしています。
それが終わって、疲れた体に鞭打って覚えます。
なかなか覚えられず、謡本を握りしめたまま机に突っ伏して寝てしまう毎日でした。
おかげで、主食とも謂えるビールが全く飲めず、健康的な日々でした。
「浮舟」が終わって、チョットひと段落・・・・ しません。
10月下旬から11月上旬まで、「誓願寺」「谷行」「梅枝」など目白押しです。新作能「沙院」というのもあります。
ああああ。。。。
また健康的な日々が続きそうです。
2012年10月08日
温泉にて 能楽講座
今日は、伊豆の国市伊豆長岡温泉の老舗旅館「三楽の宿 さかや」にて能の講座。
伊豆の国市観光協会主催で、毎年さまざまな趣向を凝らして能楽ワークショップが開催されています。
主催者側が最初用意してきた演題は「能における頼朝、光と影」でした。
今年は、源頼朝が挙兵して830年にあたるので、伊豆の国市では頼朝に因んだイベントが多く催されています。
伊豆の国市は、源頼朝が流されていた場所であるため、頼朝関連の史跡が多くあるのです。
830年というのが何とも中途半端ですが(恐らく大河ドラマに関連したのでしょう)、この記念すべき年を伊豆の国市は市を挙げて盛り上げています。
でも、その演題は困ります。能の中に源頼朝はほとんど登場しないからです。
それで演題を、「能における頼朝・義経、光と影」に替えてもらいました。
義経は能ではお馴染の人物です。
人物別では最多の9曲に登場します。
これなら、お話するネタはいくらでもあります。
ところで、能には何故頼朝はほとんど出てこないのでしょう?
また、義経がこんなに登場するのはどうしてでしょう?
能は、日本人の美学や美意識を色濃く反映しています。
日本人の感性は、敗者により深い同情を寄せるようです。
日本文学は、基本は敗者の物語のようです。
能においても、その傾向は強いように思います。
何せ、修羅物が17曲ある中で、勝ち戦を扱った曲は、「屋島」「箙」「田村」の3曲しかありません。
源平合戦で一番の勝者は誰でしょう。
文句なく源頼朝でしょう。
では、一番悲劇的な人物は?
これは、やはり源義経でしょう。
だから、能では頼朝より義経の物語の方が取り上げやすいのです。
能で源頼朝が登場する曲は、「大仏供養」「七騎落」と2曲しかありません。
このうち「大仏供養」は子方が演じる役で、物語にほとんど関係のない役です。
また源頼朝は、源平合戦において常に勝利者であった訳ではありません。
旗揚げしてしばらくは敗れ続けました。
「七騎落」は、そのうちの石橋山の合戦に敗れて逃走する頼朝一行を描いた能です。
やはり能は、敗者の文学なのです。
源義経の描かれ方もそうです。
義経は波乱万丈の生涯を送ります。
幼少期は、敗軍の源氏の子供として、鞍馬山などに預けられ幽閉同然に過ごします。
頼朝挙兵の後は、源氏の総大将として連戦連勝。平家追討の立役者となります。
しかし、その後は兄・頼朝と仲違いをして、追われる身となり、ついに奥州平泉で自害します。
能において義経は9曲も登場しますが、連戦連勝の総大将時代の義経を描いた能は「屋島」しかありません。
幽閉時代の少年期の義経は「鞍馬天狗」「橋弁慶」「烏帽子折」に登場します。
また、「正尊」「船弁慶」「忠信」「安宅」「摂待」は、頼朝と仲違いしてからの物語です。
こう見てみると、「能における頼朝・義経、光と影」は見えてきます。
二人とも、光は少なく影ばっかり。
こんな話をしたら、会場は大ウケでした。