2010年01月

2010年01月31日

「碇潜」楽屋にて

本日は、のうのう能にて、宝生流の「船弁慶」と、喜正先生の「碇潜」

宝生流の「船弁慶」はいろいろ発見があって面白かったです。

私は「碇潜」の地謡を勤めました。
出の遠い曲でしたので、しっかりと覚え、なかなか楽しく謡えました。


この催しは、イラスト入りのとても詳しい当日番組が売りです。今日も素晴らしいものが配られました。

今日の番組には平家の系図が載っていました。
それをしげしげ眺めながら、誰かが一言

「今日のツレの大納言局って、誰?」

「平重衡の奥さんのようですよ」

「建礼門院と重衡は兄妹だから、建礼門院と大納言局は義理の姉妹ですね」
「ということは、二位尼にとっては息子・重衡の奥さんだから、大納言局は義理の娘ということになりますね」

その時、今日の「碇潜」で二位尼を勤めるE氏と大納言局を勤めるS氏が一瞬目を合わせます。

そして、俺たち母娘かよって顔をしています。

系図を見ると、平知盛も平清盛の息子ですので、平重衡と兄妹です。
つまり、E氏にとって、シテの喜正師は息子だし、S氏にとっては義兄です。

なんか、楽屋がほんわかとしてきました。
平家の一門なのでみな親戚であるのは分かり切っているのですが、実際に娘だの兄だのとつながっていると、妙な親近感が出てくるようです。


そこに、子方の安徳天皇を勤めるK君(小学校2年生)がやってきました。
E氏はにこやかに言います。

「おじちゃんは、K君のおばあちゃんなんだよ」

K君は、とても嫌そうな顔をして通り過ぎていきました。


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2010年01月30日

深川の職人 続き

先日、書いた深川の職人の記事は大人気のようです。

さっそく先輩からメールが来ました。

手芸屋さんを営むその先輩は、職人が使っている接着剤は黄色でしょう?
と聞いてきます。

確かに黄色い接着剤でした。

先輩によると、その接着剤は革製品(レザークラフト)に使う接着剤で、乾いてからでないとダメな接着剤だそうです。

いやはや、職人の世界は奥深い。

ところで、今日地下鉄の乗り換え駅で、某大手チェーンの靴の修理業者の店を見つけました。

店先の値段表を見ると、
「つま先の修理 1470円~」

と出てました。

うーん50円って、改めて凄い値段です。



kuwata_takashi at 22:08|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2010年01月27日

深川の職人

私が一番気に入っている靴。気がつくとつま先の靴底が少しはがれています。
わずか3センチくらいですが、こういったキズは、浅いうちに直したほうが良いにきまっています。


以前も、やはり気に入っていた靴のかかとがはがれたことがありました。
買った靴屋に持っていっても全く取り合ってくれません。
「ああ、これは買い換えた方が早いよ」
というだけです。

今時、靴の修理なんて割の合わないことをやってくれる靴屋さんなんてほとんどありません。

以前住んでいた葛西の駅前の合い鍵屋が、靴の修理も扱っているというので持っていってみました。
すると、わずか1000円でかかとをくっつけてくれました。

喜んで再び履きましたが、やはり後から付けたかかとはすぐはがれます。
その都度、持っていくとすぐに直してくれました。

ただ、そのうち頻繁にはがれるようになり、やがて履けなくなってしまいました。
まあ、寿命でしょう。
でも、何度も修理しながら大事に履けたことに、満足でした。

で、今回も、このお気に入りの靴をどこかで直してもらおうと、近所を探してみました。

すると、「靴の修理承ります」という看板を、見つけました。
商店街にひっそりとある小さな靴屋さんです。なぜかシャッターが半分おりています。

私は恐る恐る入ってみました。
誰もいない。なんて不用心なトコだ。私は大声を出しました。
「ごめんください」

「はーい」

ご主人がめんどくさそうにやってきます。

「この靴なおりますか」

「お、カッコイイ靴だねえ。こんなのすぐだよ。ちょっとすわってな」
「ワシは女房に死なれてなあ、もう80だよ」
「店は、適当だよ。在庫処分みたいなもんだよ。靴なんか売れやしない」

ご主人は、朴とつとしゃべりだします。

夕方から病院に行かなければならない私は急いでいます。
「あのー、時間かかるのでしたら出直しますけど」

「ああ、待ってろ」
ご主人は、ヘラを取り出し、私の靴のつま先の割れ目に突っ込みます。
何をするんだろうと見ていると、いきなり

メリ!!

割れ目をこじ開けました。瞬く間に3センチばかしの小さな割れ目は10センチもの大きな裂け目となってしまいました。

「大丈夫だろうか・・・」

しかし、慣れた手つきでヤスリをかけて接着剤らしきものを塗っています。

「おお、さすがの手つき。これなら安心だ。」

しかしご主人は、またしゃべり出します。

「しかし、突然死んだんだよ。3月だから、4・5・6・・・・ もう10カ月だよ」
奥様が亡くなってよっぽどショックだったのでしょう。
でも初対面の私に、そんなに思い出話を語らなくても・・・

見ると、靴の裂け目はまだ裂けたまま
接着剤付けたはずなのに、全然直ってないじゃん。というより、ますますひどくなってるような気がする。

ご主人の話は、いつの間にか自分が靴屋を始めた頃の話になっています。
「最近の靴は全部工場でつくるからな、全然だめだ。昔は、ワシのほかに2人職人がいたが(どこに?)、今はワシだけだ」

壁をみると、靴の手作りの技能者証書のようなものが飾っています。

「ご主人は、靴を手作りするのですか?」

「おおそうだ。ちょっと待ってろ」
お主人は、奥から靴の部品を取り出し始めます。

つま先が10センチほど裂けたままほっぽり出されている私の靴が気になります。
「あの、私の靴は・・・」

「今、乾くから待ってろ」

相変わらず、裂け目は裂けたまま。いくら待ったって、絶対に直りっこない。だいたい、さっき塗った接着剤が乾いたら、もう着かないのでは・・
時間のない私は、だんだんあせってきました。

イライラしている私をよそに、ご主人は靴の作り方の説明を始めました。

「この革を見てみろ、良い革だろう。これは1500円で買えるんだぞ。そして、これとこれを縫い合わせて・・・」

お話は面白いんですが・・・
だめだ、こんな店来るんじゃなかった。急いでいる私は靴を引き取って帰ろうとしました。

「おお、もういいかな」

ご主人は、おもむろに作業を始めると、瞬く間に裂け目は埋まり、きれいに仕上がりました。
なんでも、乾かないとうまく着かない接着剤なのだそうです。
だから、裂け目にぬったまま。放置してたのか・・・

考えてみれば、未だに靴を手作りしている職人なんて、そうそういないでしょう。実はすごいオヤジなんじゃないかな。

あまりに見事な、修理の手際にほれぼれしました。すごい職人です。まさに職人芸。本当に感服しました。

しかし、少し不安になりました。
駅前の合い鍵屋は、1000円でやってくれましたが、こんな腕の良い職人に直していただいたら、いくらかかるんだろう?

「あの、お代は・・・」

「え、そんなのイイよ」

「え!! そんな訳にいきません」

「そう、じゃあ50円」

50円!!! 駄菓子屋じゃああるまいし、そんな値段はないだろう。
「いえ、それでは安すぎます。500円、いや1000円位はお支払いします」

ご主人は少し語気を強めて
「バカ言ってんじゃねえ、こんな軽い仕事で銭なんて貰えるか」

その剣幕に、恐れて私が財布から50円を出して渡すと、ご主人は嬉しそうに50円を眺めています。

「これは価値あるお金だねえ・・・   あ、そうだその靴、かかともはがれそうだよ。はがれたらすぐ持っておいで」

下町には、こんな職人がまだ残っているんだなあ。
でも、ご主人も80歳。後を継ぐ者はいないそうです。こうして途絶える職人芸って、数多くあるのでしょうねえ。さみしい限りです。

結局、病院の予約時間には遅れましたが、良いひと時でした。



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2010年01月25日

今度は「鵺」

「養老」を勤めて、はや二週間。
今は、「鵺」モード全開です。

来る2月14日に、九皐会で「鵺」をさせていただきます。

新春早々そんなおどろおどろしいものをとお思いでしょう。
でも、この曲こそは今年を飾るにふさわしい曲です。

「鵺」とは、トラツグミという鳥の別名です。
トラツグミは、足の爪が虎ににているから、その名を得た鳥です。

そうです、寅年の今年にふさわしい曲ですね。

「鵺」の曲中でも、手足は虎のごとくなりと言われます。


「鵺」
難しい曲です。

元々、鬼の物まねを得意とした申楽を、幽玄の美に変えた世阿弥。
その世阿弥が晩年に、新たなる鬼の能を再構築したのがこの「鵺」と言われます。

とにかく、良くできた最高の作品です。
世阿弥の自信作と伝えられるだけのことはあります。

本番まで、あと3週間をきりました。
世阿弥の偉大なる作品に、真正面から取り組みます。


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2010年01月22日

名古屋 講演

今日は、午前中は鎌倉にて学生能。
終わってすぐ名古屋に行きました。

東海東京証券の名古屋本社のプレミアムサロンにて講演をするためです。

昨年11月に東京本社で講演をしましたところ、好評でして名古屋でもお話をさせていただく機会を得ました。

東海東京証券は、文化事業にとても力を入れている企業でして、お得意様を集めてよくセミナーを催しているそうです。

会場のプレミアムサロンは、名前の通りとてもプレミアムな空間でした。
預け入れ資産が、なんと1億以上のお客様専用のサロンです。

そのスーパーVIPなお客様は、こんなところで商談しているんですねえ。

「本来私は、絶対入れない場所ですね」

私がそう言うと、担当者は笑っていました。


講演は、上々の盛り上がりでした。
終わった後は、とても美味しいお蕎麦屋さんに連れていっていただきました。

名古屋で蕎麦?

きしめんや味噌煮込みうどんじゃなくて、蕎麦です。
しかし、これが絶品。

名物の味噌しゃぶしゃぶも頂きました。
八丁味噌のスープで食べるしゃぶしゃぶは、今まで食べたことのない味で美味でした。

蕎麦屋なのに、味噌カツに名古屋コーチンも頂きました。
そしてお土産は、ういろうに赤福。

奥深い街です。


kuwata_takashi at 19:29|PermalinkComments(0)TrackBack(0)