2005年08月

2005年08月21日

公式戦終了

今日は小金井薪能。

自分でも「船弁慶」や「鞍馬天狗」をやっといて何ですが、今年は義経物が大流行。今日も「船弁慶」でした。

小金井薪能は今年で27回目を迎える歴史ある薪能です。実は私の初舞台は、12年前の第15回小金井薪能です。
この年は、第15回を記念して、シテ・ワキ・ツレなど立ち役から地謡・お囃子まで出演者のすべてが現役大学生による合同の学生能「土蜘蛛」が開催されました。
当時明治大学の学生だった私は、「土蜘蛛」の頼光というイイ役をさせていただいたのです。
あれからもう、12年。感慨深いです。


怒涛の8月もこれにてひと段落。
明後日より、北欧公演に参ります。17日間で7公演と随分ゆっくりした日程です。とはいえ、スウェーデン・ノルウェー・イギリスの4都市を回るので、移動も多くて結構ハード。完全オフは一日しかありません。ただ、公演はいずれも夜なので、午前中はゆっくり出来そうです。
でも、きっとどこにも行かず、寝てるんだろうなあ。


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2005年08月16日

第二回御用邸能楽サロン

今日は、第二回の沼津御用邸での「御用邸能楽サロン」でした。

お盆の最終日ということで、どれだけ人が集まるか不安でしたが、今日もたくさんの人に来て頂きました。会場は、昭和天皇が皇太子だったころに勉強部屋だったところ。
うだるような暑さの中、参加者は皇太子になった気分で、懸命にお稽古なさいました。

ところで今日は、静岡放送が取材に来る予定でしたが、仙台でおこった地震のため取材は延期となりました。
昨日取材の申し込みがございました。そのとき静岡放送のスタッフが言ううには、
「大きな事件や、地震が起こらない限り取材させていただきます」

もちろん冗談だったんですが、その言葉は本当になってしまいました。

ただ、沼津朝日新聞は取材に来てくださいました。近々載ると思います。取っている方は、チェックしてください。


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2005年08月10日

ふたりのノーラ

9日、10日と梅若能楽堂で、創作能「ふたりのノーラ」に出演してきました。
取りあえず、これで怒涛の8月の前半戦は終了。

「ふたりのノーラ」は、ノルウェーの演劇の巨人、イプセンの「人形の家」をもとにした創作能。
主人公のノーラを、能楽師と現代演劇の役者が場面ごとに演じるという意欲的な作品。

そうです。能舞台の上で、能の地謡や囃子に合わせて、現代演劇の役者が演じるのです。
当然、能楽師は能の謡い方や所作をしますし、役者は普通に芝居しています。

能舞台で能の地謡や囃子に合わせているので、役者さんの動きは浮いてしまいそうなものですが、意外とマッチしていました。
逆に、現代語で謡を謡わなければならなかった能楽師の方に、違和感を感じました。

能舞台のふところの深さですかね。

この作品は、今回は言わば試演。
今月23日から9月にかけて行なわれるスウェーデン・ノルウェー・イギリス公演で上演されます。
今度はイプセンの本拠地。真価が問われます。


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2005年08月05日

嵐を呼ぶ花月

今日は、九皐会の申合せの後、岐阜へ飛び長良川薪能。
そこで、もうきっとないであろう感動の舞台に立ち合わさせていただきました。
この感動は、私の能楽師人生を振り返った後、きっと大きな財産となるでしょう。


今日の番組は、
舞囃子「花月」観世喜之 狂言「瓜盗人」井上菊次郎 能「絵馬」観世喜正
というものでした。

開演時間となり、さあ始めるかと身構えた瞬間、パラパラと雨が降り出す。
取り敢えず様子を見ることとなった。

その後、雨が止み、始めようとするとまた降り出すという状況が続き、最初の舞囃子の出番を控えた師匠を始め私達は、その度にやきもき。

30分以上そういう状況が続くと、私達もさすがに気が滅入ってきます。私など、不謹慎にも、「もう出来ないよなあ、こんな状況なら、スパッと止めた方が、お客様のためにもいいんじゃないかなあ」
などと、思ってしまいました。

しかしそんな中、師匠は、雨の中待ってくださるお客様のためにも早くやろう。と言い続けていました。

そしてまだ降り続ける雨の中、師匠は、
「これくらいだったら、出来る。まだ待って下さるお客様のためにも、やりましょう」
と、舞台へ向かわれました。そうとなったら、地謡・囃子も覚悟を決めます。私も、意を決して舞台に上がりました。

私達が舞台に姿を見せると、まだほとんど帰っていないお客様からの割れんばかりの拍手。
さすがに胸に燃えるものを感じます。
「ようし、張り切ってやるぞ」

師匠が第一声を謡い、何事もなかったように舞囃子が始まりました。するとその瞬間、閃光がきらめき辺りが真っ白になり、今まで聞いたことのない轟音がとどろきました。すぐ近くに雷が落ちたようでして、舞台照明も落ちて薄暗くなってしまいました。そしてその直後、滝のような雨が降ってきたのです。

「アカン、これはもう中止だ」
誰もがそう思いました。
しかし、師匠は舞をやめません。

その姿に、観客席からまたもや大きな拍手が鳴り響きました。

舞台照明は半分くらいは回復したようですが、まだ薄暗い中、豪雨を受けながらも、涼しげに「花月」の少年の晴れやかな舞を舞う師匠の姿は、美しかったです。
私達も、何かに取り付かれたように謡っていました。お囃子方も然りです。

お客様は誰も帰りません。
こんな素晴らしい舞台を見て、席を立てる訳がございません。

見事舞い終えた時には、雷鳴のような拍手が起こりました。天然の雷よりも、ズシリと響く拍手でした。
もうお客様もわかっています。今日の公演はもう続けられないだろう。
これで打ち切りに違いない。

だからこそ、雨の中出てきて舞を見せてくださった観世喜之師匠に、尽くしきれない拍手を送って下さるのでしょう。

舞っているうちにも、あちこちに雷は落ちてきました。
でも、不思議と怖くなかったです。この人智を超えた空間に、雷が落ちる訳がございません。
この舞台に立ち会えたことを誇りに思います。

案の定、「花月」のみで長良川薪能は、打ち切りになってしまいました。でも、この薪能は歴史に残る舞台と確信してます。

能は一期一会の芸能と言われます。同じメンバーで演じられても、今日の「花月」は、決して再現する事は出来ないでしょう。


私は、今日も師匠からたくさんのことを学ばさせていただきました。


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2005年08月04日

クーリヤッタム

「クーリヤッタム」という演劇を見てきました。

「クーリヤッタム」とは、南インドに千年以上前より今の形を留めて伝わる、世界最古と言われる舞踊劇です。

もともと、ヒンドゥー寺院でのみ行なわれた神事であり、神の前で奉納することが前提となっている演劇です。ですから、神にもわかる様に、物語はムドラーといわれる手振りと目の動きのみで進められます。喜怒哀楽の全てが、決められたムドラーと目の動きで演じられます。

そう聞くと、喜怒哀楽の全てを決められた型と面のわずかな動きで表現する能の手法とたいへん酷似していることに気付きます。

そもそも、柳田国男の「日本の祭」によると、日本の芸能の全ては、祭りの時、集まってきた神々を楽しませるために演じられたそうです。能も然りです。

「クーリヤッタム」というインドの古典芸能は、世界の演劇の歴史の上で、日本の「能」と非常に似た存在としてしばしば比較されています。今日見て、本当に良く似ているなあと感心いたしました。
くしくも、能とクーリヤッタムは、2001年に、同時にユネスコ世界無形文化遺産の第一回の指定を受けています。

クーリヤッタムは、そもそも寺院のみで演じられ、その後王族の庇護を受けて守られてきたが、王族制度廃止により、存亡の危機を迎えるのですが、その後演者による必死の努力により現代に伝えられているそうです。
何だか、演劇の形態だけでなく歴史までそっくりです。

私がクーリヤッタムを知ったのは、2001年の世界無形文化遺産を受けた時のNHKの特番でした。
その番組では、去年40代半ばで急逝した狂言師、故・野村万之丞氏が案内役となり、クーリヤッタムを世界で始めてTVで紹介していました。
アジア演劇を様々な角度から研究していた万之丞氏は、クーリヤッタムがシルクロードを通って伝わり、日本に入ってきて、能という芸能に集約されたと断言していました。
その番組で、クーリヤッタム側の案内役が、今回の日本公演の団長を勤めているG・ヴェーヌ氏でした。


その後私は、シンガポールの演劇学校で能を教えに行くようになりました。その学校のコンセプトは、アジア人の手による、アジア人の特性を生かしたアジア人独自の演劇を構築することにあり、学生達はアジア各国の演劇の実演が課せられています。
中国の京劇、インドネシアの宮中舞楽とならんで、能とクーリヤッタムが必修となっています。

私は当然能を教えに行ったのですが、そこでまたクーリヤッタムの存在を再確認しました。実際は、能とクーリヤッタムを同時に学ぶことはないので、クーリヤッタムの先生と会うことはありませんでした。
ただ、学生の中に、クーリヤッタムの若い継承者がいたのです。
彼が演じる、クーリヤッタムの演奏・演技を見て、私は心が震えました。たいへんな感動を覚え、いつかはキチンとしたクーリヤッタムを見てみたいと思い続けていました。

TVで野村万之丞氏の相手役をしていたG・ヴェーヌ氏が、シンガポールの学校でクーリヤッタムの先生をしていることも、知らされました。G・ヴェーヌ氏はクーリヤッタム普及の伝道師的役割を行なっており、私はその姿勢に、勝手に尊敬しておりました。

今回、そのG・ヴェーヌ氏を団長とした日本公演です。
私は、万障繰りあわして見に行きました。

生で見るクーリヤッタムは、もう、感動の嵐。初めて能を見たとき以来の強烈な感動でした。

あまりの感動に、私は終演後、暴挙に出ました。

なんと、楽屋に突撃して、G・ヴェーヌ氏と面会したのです。

最初は、たどたどしい英語で話しかけてくる怪しい日本人として、警戒していたG・ヴェーヌ氏ですが、私が能楽師で、同じシンガポールの学校で先生をしていることを話すと、向こうも興味を持ってくださいまして、簡単ではありましたが、能とクーリヤッタムについて有意義なお話をさせていただくことが出来ました。
まあ、私の英語力では込み入った話までは、当然出来ませんでしたけど。

いやあ、感動です。

もし、興味のある方、8月4日から7日までと10日は東京で、9日は横浜で、11日から13日までは山梨で公演が行なわれています。是非見て下さい。これを逃すと、日本で見れることは当分ありません。
この日本公演の問い合わせ先は、勝手に載せてしまいますが、

東京事務局 03-5225-2378
http://kuti.artcamp.org/

です。

あまりの興奮に、長文となってしまいました。



at 23:39|Permalink