2019年12月

2019年12月31日

御礼 2019年

59192841_405684436945577_4285106089743089664_n


2019年の大晦日となりました。例年の通り、紅白歌合戦を見ながら今年のふりかえりをいたします。

今年も様々なことがありました。充実した一年でした。

まず、1~3月にシンガポールの演劇学校「Intercultural Theatre Institute」にて能の授業をしました。
今回で17年目をむかえ、すっかり私のライフワークです。
今年も世界各国の様々な学生に能を教え、交流しました。

怪しい英語での稽古、終わった後のビールを飲みながらの楽しい交流。
忘れられない思い出です。

また、11月は私の社中の発表会である茉莉会がめでたく15周年を迎え、矢来能楽堂にてにぎやかに記念会をいたしました。
これから20周年30周年と、長く続けていきたいと思います。


今年は8番の能を演じました。

3月9日 沼津ろうそく能「土蜘蛛」
4月28日 九皐会別会「安宅」
6月15日 能まつり「三井寺」
8月14日 深川八幡祭「橋弁慶」
9月8日 九皐会「春栄」
9月25日 文化庁巡回公演「土蜘蛛」
11月27日 文化庁巡回公演「小鍛冶」
12月14日 緑泉会「富士太鼓」

3月の沼津ろうそく能では、妻の実家があり私も19年間お稽古に伺っている沼津市での公演で、シテをさせていただきました。
大変光栄なことです。

4月には九皐会の別会にて「安宅」の披き(冒頭の写真)です。
能楽師にとって節目となるこの大曲に、精一杯挑みました。
完全燃焼の舞台でした。

6月は二度目の銀座・観世能楽堂での自主公演。
前から演じたいと思っていた「三井寺」に挑戦しました。

8月の深川八幡祭では二度目の「橋弁慶」です。
初演は長男が牛若丸でしたが、今度は次男との共演。
良い機会を得ました。

9月の「春栄」は、三島市が舞台の能なので、隣の沼津市にゆかりのある私としては、ぜひ演じたい能でした。
12歳の次男と兄弟を演じました。ずいぶん年の離れた兄弟だと、さんざん言われました。

また、9月の文化庁巡回公演では、母校の福山市立春日小学校で「土蜘蛛」を演じました。36年ぶりに訪れた母校は懐かしかったです。
これで、私が卒業した小学校・中学校・高校・大学の全てで能を演じさせていただいたことになります。
この上なく嬉しいことです。

11月の文化庁巡回公演では「小鍛冶」。忙しい日程の中でしたが、次代を担う子供たちにとって、初めて体験する能です。楽しんでもらいたいという気持ちで、心して演じました。

そして、先々週演じた「富士太鼓」。次男は、この能で子方卒業となります。子方との共演は最後になります。終演後、ちょっとしみじみしました。


様々なことがあった2019年もいよいよ終わりです。

2020年、全力投球で参りたいと思います。



kuwata_takashi at 22:40|PermalinkComments(0)

2019年12月16日

「富士太鼓」御礼

img065


緑泉会にて、能「富士太鼓」を演じました。


先日お話しした通り、今回は次男の子方卒業の舞台でした。
何だか、格別の気分になります。

そんなこともあって、今回はいつも以上に神妙な気持ちで舞台に臨みました。

実は、舞台の5日前ほどに、右足を負傷しました。
どこかにぶつけたとか、ひねったとかではないのですが、何故だか足の甲が腫れてきました。
おそらく、連日の疲労や正座疲れなどがどっと出たのでしょうか?
とにかく、右足の甲が、左足の1.3倍ほどに膨れています。

このような原因不明の足の痛さは初めてです。何だか不気味です。

そんなことも含めて身体が老化しているのでしょう。

シテの前だったので、今週は元々そんなに予定を入れていませんでしたので、とにかく足を休めました。
普段は、シテの前は最後のあがきとばかり、舞台にこもって稽古するのですが、今回は謡の稽古中心にしました。

舞台を前にして、体を動かさないのは、実はとっても不安なのですが、今回は自分に言い聞かせました。
「今は、動くより休む方が大事」

安静にしていたおかげで、当日までには、だいぶ腫れも引きました。
痛み止めの薬も飲んだので、演能中は嘘のように足の痛みを感じませんでした。

もう治ったのかと思いきや、終わってから激しい痛みが押し寄せてきます。
集中するとアドレナリンが出て痛みを感じないというのは本当なのですね。


「富士太鼓」は好きな曲です。
お弟子さんのお稽古も最初のころにやるので、謡はおなじみです。

毎回、シテの前には必死になってシテの謡を覚えるのですが、今回その作業は必要ありません。

謡を知っていると、すぐ物語世界に入っていけるものです。
シテの感情の起伏など、いろいろ工夫してみました。

最初に、子方と長く連吟します。
子供と声を合わせるのは難しいのですが、次男はもう声変わりしているので、同じ声の高さでスムーズに謡えました。
次男は、子供の甲高い声は出なくなって、何だか落ち着いた声で謡っています。

その他、所作なども冷静に演じています。
いつも舞台で落ち着きのなかった次男が、いつの間にか頼もしい子方になりました。

私も、子供の頑張りに負けないよう、気張って演じました。
なかなか良い感じで舞台が進みます。

こんな時、よく落とし穴があるものです。

後半の眼目、「楽」という舞を舞う前に、物着で頭につけていた鳥兜という烏帽子が落ちてしまいました。

作り物の前で太鼓を打つ子方からバチを取って、後ろへ追いやる場面の時、子方が持つバチを見ようと下を向いた時、鳥兜がするりと頭から落ちました。

実は鳥兜は、とても重い烏帽子なので、たまにこういう事故が起こります。
いつもは能面を縛る紐に繰り掛けたりして、落ちないようにガッチリつけます。
しかし「富士太鼓」は、最後に鳥兜を脱ぐシーンがあるので、そんなにガチガチに固定できません。

結果的に、あの大きな烏帽子を、あごに紐を結んでとめているだけです。
基本的にかなり無理のある着け方なのです。

ともかく、さあこれから眼目の「楽」を舞うぜ、と思った矢先の事故です。
そんな事態にも関わらず、わりに冷静でした。

「これからの長い舞の間、鳥兜なしで舞うのは嫌だなあ、どこかで後見にもう一度着けてもらわなければなあ・・・」

そんなこと考えていたら、後見が鳥兜を拾っているのが見えました。
「変に舞の中で着けるより、今ここ、舞の初めで着けてもらおう」

そう思った私は、舞が始まると、すぐに後見の元に歩いていきました。
慌てずに、あくまでそういう型をしているとでも思わせながら進んでいきました。

後見に、再び着けていただき、すぐに舞いに戻ることが出来ました。

その後は舞は、なるべく頭が動かないように細心の注意をして舞いました。
そもそも、能の舞は頭がなるべくぶれないように舞うのが良いとされています。

究極のすり足で舞えば、頭から物が落ちることはないはず。

そう念じて舞い終わりました。

思わぬトラブルが発生しましたが、引きずらず、滞りなく出来たかなあ、、、

悔しい気持ちはもちろんあります。
でも、今回は気持ちを切らさずに最後まで舞い切った自分を褒めようと思います。

はああ、疲れる舞台でした。



kuwata_takashi at 19:54|PermalinkComments(0)

2019年12月13日

富士太鼓 子供と最後の稽古

img065

いよいよ明日、緑泉会にて「富士太鼓」を演じます。

今日、次男と最後の稽古をしました。

身長大きくなった次男は、今回で子方卒業です。
今日、稽古しながら、

「これが最後の子方の稽古なんだなあ・・・」
と、少しジーンと来ました。

今まで能の子方を、長男は29番、次男は27番演じました。

多い時は、長男と次男がそれぞれ毎週のように舞台がありました。
稽古は大変でしたが、その分濃密な時間が過ごせたように思います。

明日は、子方として最後の共演になります。
心して演じようと思います。



kuwata_takashi at 21:38|PermalinkComments(0)

2019年12月06日

緑泉会「富士太鼓」 最後の子方

img065img066

上記ののチラシの通り、12月14日(土)緑泉会にて能「富士太鼓」を演じます。

 

「富士太鼓」は、太鼓の役をめぐる争いで討たれてしまった夫の敵を、妻と子供が討つという仇討ち物の形をとっています。ただ、富士の妻は夫を討った人ではなく、太鼓に恨みが向きます。

「夫が太鼓などやらなければ殺されずにすんだのに・・・ 恨めしいのは太鼓」

と、太鼓を打ち据えて恨みを晴らします。実に能らしい展開です。

12月14日と言えば、忠臣蔵の討ち入りの日です。この日に能らしい仇討ちをお楽しみください。

 

さて、この能は大変見どころの多い能です。

最初に橋掛かりでシテと子方が長い謡を一緒に謡います。子供との同吟は大変難しいので、親子でしっかり稽古しておこうと思います。

 

物着にてシテは夫の舞の装束と冠を身に着けます。ここでシテは想いが募って狂乱となり、舞い始めます。女性が男装して舞う芸能は、平安時代の白拍子から続く日本の定番の芸能です。現代でも宝塚などはその系統です。

美しい女性が、男装で舞う舞はなかなか見ごたえがあります。また、その女性を演じているのが男性の役者(つまり私)というのが、また面白いところです。

 

「富士太鼓」は、また子方が難しい役です。この難役に、次男・大志郎が挑みます。

早いもので、次男も小学6年生となりました。身体も大きくなり、声変わりも始まっております。今回が最後の子方になると思います。とうとう子方卒業です。

 

ここ数年、長男と次男と共に、子方の出る能をたくさん演じてきました。

幸いなことに、演じたい能はおおむね演じることが出来ました。今回がシテと子方という形では、最後の共演になります。(もっとも、来年もツレとして大人の役を演じる子供と、共演する機会はあります)

 

最後の子方にのぞみ、能が大好きな次男はとても張り切っております。

最後の共演を、存分に楽しみたいと思います。

 

 

この公演では能「富士太鼓」の他、能「雲林院」、狂言「見物左衛門」、仕舞など見どころ満載です。

 

中でも人間国宝である野村万作師による「見物左衛門」は必見です。

この狂言は、なんと一人狂言です。一人で演じられる狂言は他には茂山家が復曲した「独り松茸」があるだけです。この「見物左衛門」は和泉流の番外曲扱いで、滅多に上演されません。

一人の演者が、様々の情景を表現しながら物語の世界を構築しなければなりません。老練な技量が必要とされる、大変に難しい狂言です。野村万作師の至芸を楽しんでください。

 

 

皆様のご来場をお待ち申し上げます。

チケットご希望の方は、私までご一報下さいませ。ご用意させて頂きます。 

 




kuwata_takashi at 23:22|PermalinkComments(0)