2007年11月

2007年11月30日

よく働きました

忙しいのを自慢する人は、自分が無能だと言っているようなものなのだそうです。

無能を承知で敢えて言いますが、10月・11月は本当に忙しかったです。

例年なら、12月になると少しは落ち着くのですが、今年はかえって忙しいです。

まあ、この忙しさの原因は12月22日と23日に東京と沼津で連続してお浚い会を企画しているからなのですけど。。。

だいたい、この年末にしかお浚い会が入れられないというのが、異常な事態です。

お弟子さんからは、大不評です。


最近、ろくに休んでおりません。
月に一度位、何も予定が無い日があるのですが、すごい不安になります。
「今日、仕事無かったっけ? こんなに休んで良いんだっけ?」

休むと、何か悪いことをした気になります。

正月などで、3日位休みが続くと、必ず風邪ひいてしまいます。

サメは泳ぎ続けなければ、溺れてしまうそうです。
まさに、私はサメのごとくに働いています。


以前、ある新聞の取材を受けた時のことです。

「休日は何をして過ごしていますか?」

「休日は、、、ありません」
「たまの仕事が無い日は、事務仕事と覚え物と自分の稽古で終わります」

インタビュアーは、ビックリしてこんなことを言いました
「そんな生活、楽しいのですか」

私は、きっぱりと応えました
「はい! 楽しいです。
楽しくてたまりません。
だって、一番好きなことを仕事にしているのですから……」


at 23:15|Permalink

2007年11月19日

町田市立博物館シンポジウム

昨日は、町田市立博物館主催のシンポジウム「能と風土 町田を舞台とした謡曲『横山』」がありました。

去年まで町田市長を4期16年務められた、寺田前町田市長は、かねてから町田市を全国に発信するものとして、町田を舞台とする能「横山」に注目していらっしゃいます。

今回、寺田前市長の念願が叶ってこのようなシンポジウムが行われました。

申し込みが殺到したそうでして、158人の定員は瞬く間に一杯になり、キャンセル待ちまで出る人気ぶりでした。

昨日は、まず冒頭に寺田前市長が能「横山」に注目した経緯を説明されます。

そして、法政大学能楽研究所 所長の西野春雄氏が、「横山」はどういう能で、何故演じられなくなったのかを説明なさいました。
また、西野氏らの研究者が20年前に「横山」を復曲なさったときの経緯なども説明されました。

「横山」とは、観阿弥の作と考えられ、能の昔の形を色濃く残しています。
色んな要素がギッシリ詰め込まれているので、かなり長大な作品のようです。

あまりに長すぎることと、類曲の「鉢木」に人気がとって代わられたことが演じられなくなった理由ということです。

ホールの一番前列の真ん中に、町田市教育長や博物館館長など偉い人達に囲まれて「桑田貴志様」と書かれた席が用意してあったので、気恥ずかしいながら、前半はただの観客となって楽しんでシンポジウムを聴いていました。

「面白い。なんか、とてもアカデミックな気分……」

良い気分で聴いている場合ではありません。
後半は、私の出番です。

今まで色んな所でお話させて頂いていますが、このようなアカデミックな場所は初めてです。

西野先生も、後半の謡をお楽しみ下さいと、折々におっしゃいます。

「さあ、これは困った……」

私は、アカデミックな話は出来ないので、いつもの通りざっくばらんにお話しました。
すると、それが大ウケ。
自然態で望むのが一番ですね、とりあえずホッとしました。


眼目は、「横山」の謡です。

観世流では、「横山」は蘭曲という扱いです。
蘭曲とは、最高位の曲という意味で、観世流ではとても大事にしています。

師匠に相談したところ、最初は顔をしかめましたが、なんとか許しを得ました。

蘭曲は重習です。
師匠にしっかり稽古を受けて、満を持しての上演です。

まさか、自分が能楽師人生の中で蘭曲を謡う機会があるなんて思ってもみませんでしたので、「横山」は当然初めて目を通します。

覚えるのはたいへんでしたが、またとない良い機会と思い、死ぬ気で覚えました。

シンポジウムの最後に、蘭曲とはいかにたいへんな曲かをしみじみと語り、心して謡いました。

出来映えはどうだったか分かりません。
ともかく、初の蘭曲は絶句や間違いも無く無事終わりました。



シンポジウムは、おおかた好評だったようです。

私は今、脱力感で満ちています。


私にこのような素晴らしい機会を与えて下さった、町田市立博物館の田辺館長を始め、全てのスタッフ、特に担当のSさんには深く感謝いたします。

いつか、町田の地で「横山」が上演出来れば良いですねと、言い合って一同別れました。

本当にそんな日が来ることを心から望みます。


at 00:16|Permalink

2007年11月13日

大倉集古館所蔵 能面・能装束展

今日は、町田の稽古日。
朝の若竹会の稽古の後、急いで町田市立博物館に行きました。

町田市立博物館の企画展「大倉集古館所蔵 能面・能装束展」を見るためです。
この博物館の館長は、能面研究家としても著名な方ですので、今回の企画には随分力を入れているようです。


展示品は、どれも素晴らしかったです。
江戸中期の能面・能装束が多かったのですが、その豪華さ・繊細さには驚きます。

昔の装束の図案って、今よりずっと大胆ですね。
舞台衣装と割り切っているから、日常ではありえない色使いやデザインをほどこしたのでしょう。

大倉集古館所蔵ということは、ホテルオークラ創始者大倉喜七郎氏の父で、明治の実業家大倉喜八郎氏が集めたものでしょう。

それにしても、三井記念美術館の三井さん、五島美術館を持つ東急グループの五島さん、林原美術館の林原さんや大原美術館の大原さん。

昔の成功した実業家って、みんな芸術品・美術品の収集に熱心ですね。
自分の築いた財で、芸術家達を応援するという気風が、日本には確かに存在していました。

今のIT社長たちにも見習って欲しいと思います。


さて、今日博物館に着くと、学芸員のSさんが寄ってきました。
今回の展示や、一連の関連企画は、ほとんどSさんの頑張りによって実現したものです。

とても謙虚で誠実に接して下さいます。

今日も、私に付きっきりで解説して下さいました。
時々、感想を求められたので、思ったことを述べましたところ

「たいへん勉強になります」

なんて明るく言われます。
いや、勉強になっているのは私のほうですよ・・・


先週の子供対象の「装束をつけてみよう」は大好評だったようです。

今週はいよいよ、町田市所縁の謡曲「横山」についてのシンポジウムがあります。

上手く出来るといいのですが・・・


町田市立博物館の「大倉集古館展」は、12月16日までやっております。
前期(10月30日~11月25日)と後期(11月27日~12月16日)では、展示内容がほとんど入れ替わりますので、2度楽しめます。

詳しくは、下記HPを参照下さい。

http://www.city.machida.tokyo.jp/event/shisetsubetsu/museum/ookura_nou/index.html


at 23:26|Permalink

2007年11月11日

11月九皐会 定例会

昨日から今日と大忙し。

昨日は、朝、町田で子供講座のあと、茨城県の笠間稲荷で薪能。
凄い移動距離です。

朝、家から矢来能楽堂へ寄って装束を拝借して町田へ行く。
町田が終わると、矢来へ装束を返しに行って、その後笠間稲荷に直行。
笠間稲荷の後は、家へ帰る。

総移動距離は350キロ。5回の移動全てで首都高を使いました。

ところが昨日は、雨の土曜日なのであちこちで事故だらけ。
時間かかりました。。。

朝6時半に家を出て、帰ったのは11時。よく働きました。。


明けて今日は、九皐会。
番組は、「班女」と「唐船」
私は、どちらも地謡でした。特に、「唐船」は初物なので苦労しました。

「唐船」は、九皐会では28年ぶりに出る曲です。

28年前のシテは、今日と同じく観世喜之(当時、武雄)師。
日本子(子方)を勤めたのが、観世喜正師と奥川恒治師でした。

28年後の今日は、日本子の二人は唐子(ツレ)を勤め、日本子は、喜正師の甥と奥川師の長男。

因縁深い番組立てです。


「唐船」は、なかなかドラマチックな仕立てでして、面白い能だと思います。
ただ、子方がなかなか揃わないので、稀曲となっております。


at 21:04|Permalink

2007年11月10日

町田こども講座

今日は、町田市立博物館主催のこども講座。
全4回の講座でして、私は、装束についての回を担当いたしました。


2時間の講座ですので、いろんなことができます。
最初は、能ってどんなものかお話をしたのですが、案のじょう反応が鈍いので、10分で切り上げて、能面を見せ始めました。

子供って正直ですね。
目がキラキラしてきました。

そして、子方が活躍する能のDVDを見せると食い入るように見ています。

特に、子方が大人の盗賊達をバッタバッタと斬りまくる「烏帽子折」には大興奮の様子です。

その後、休憩にしたのですが、チャンバラ・モードとなった子供に囲まれて、斬られまくられました。


休憩後は、子供達を舞台に上げて能の所作体験。
あらかじめ、「行儀の良い子は、この後装束が着れるよ」

と言ってあったのが効いたのか、みんなとても行儀良いです。

楽しく体験した後は、眼目の、装束付けの体験です。

皆、行儀が良いのですが、装束と時間に限りがあるので、誰かを選ばなければなりません。

私は一計を案じました。
ちょうど七五三の季節なので、七歳の子に手を挙げて貰いました。

手が挙がったのは4人。
ちょうど良い人数です。
用意したのは、「富士太鼓」を想定した唐織と、「海士」を想定した狩衣に大口の格好、「船弁慶」を想定した側次と大口の格好です。

順に、お姫様・大臣・お侍さんの格好と名付けて、装束の説明をしながら着せていきました。

装束を着れた子は、良い七五三の記念になったようです。


たくさんの子供と共に、楽しく講座を行うことができました。

こういった講座は、素晴らしいことだと思います。
子供のうちから、能に親しんで貰いたいと願います。

子供のころから、能の本物の良さを理解するのは難しいと思います。

だからとにかく、最初は能に親しむことから始めて欲しいです。

目を輝かせて、楽しんでいる子供達。
その笑顔は何にも代え難い素晴らしいモノです。

その笑顔を見るため、私は微力を尽くそうと思います。


at 23:41|Permalink